002:孤独な門出


「ぷっ……ぶわははははははは!!!!! お、お前、マイナスって……!!」


「なにそれ、ウケんだけど! あははっ!! しかも999って、つよっ(笑)」


「さすがだなオサム! サムすぎるぜ!!」


 オサムのレベルを見たクラスメイト達はただただ大爆笑した。

 当事者であるオサムだけは恥ずかしさで死にたい気持ちになった。


「…………っ!」


 それからは悲惨だった。

 元々クラスでイジメられていたオサムはクラスメイトたちから今まで以上に散々バカにされ続け、そして白装束達の対応もオサムにだけは分かりやすく冷たかった。


 それもそうだろう。

 勇者の中でステータスレベル「-」マイナスなんてのはオサムだけで、それどころか残りのクラスメイトは全員が「100」を超えるハンドレッド・クラスだったのだから。


 オサムだけが異質だった。

 一人だけ明らかに戦力外のレベルなのである。


 全員のレベルチェックが終わった後、勇者一行は歓迎パーティに招かれる事になったが、オサムだけは知らない騎士に呼び出された。

 

 そして告げられたのだ。


「悪いが、このパーティは勇者様のための歓迎パーティなんでな。お前は別行動だ」


 その冷たい様子に何か悪い予感がしたオサムは「何か手助けくらいはできるハズ」だと抵抗してみたがムダだった。


「この世界の常識を知らないお前のために教えておいてやるが、生まれたての赤子ですら2、3レベルはある。お前はそれ以下なんだぞ? 魔王軍との戦いは熾烈を極めるものになる。悪いが足手まといは不要……いや、むしろ邪魔だ」


 最後の言葉はあまりにも冷たく響いた。


 もはやオサムは勇者などとは思われておらず、ただの邪魔者でしかなかったのだ。

 力のないオサムには抵抗する術もなく、後は言われるがままに行動した。


 ボロの荷馬車に乗せられ、それまでいた城からどこかへ出発する。

 城の中からは楽しそうな笑い声が聞こえた気がした。


「お前も仲間の役に立ちたいんだろ? そんなお前にが与えられたんだ。国王に感謝しろよ?」



 ――そして、今に至る。


 荒れ果てた地にそびえる巨大な廃墟。

 ここは帝国騎士たちが守護する領土をこえた無法地帯の一角らしい。


『国を守るために忙しい帝国騎士に代わって、その周辺の魔王軍の動きを察知するための偵察任務を与える』


 ……という名目で、要するにオサムは国の守護範囲から追い出されたのだ。


 それはつまり「勝手に野垂死ね」という事だった。

 オサムにもなんとなくそれが理解できた。


「偵察、か……」


 いきなりそんな事を言われてもオサムにはどうすればいいのか分からない。


 廃墟の入り口には大きな木の扉があったが、すでにボロボロで扉としての機能を失っていた。

 軽く触れただけで、バタンと倒れてしまう。

 その衝撃で大量の埃が舞った。


「うわっ。ゴホ、ゴホッ……! はぁ……」


 入り口で立っていても仕方がないと、オサムは暗い廃墟に恐る恐る踏み込んだ。

 周囲の光が中には届かず、廃墟の中は昼間だというのにやけに暗い。


「おじゃましまーす……」


 こんな廃墟に誰もいるわけないんだけど。

 そう思っていながらも、つい日頃のクセで声を出してしまっていた。


「はーい?」


 廃墟の中からまさかの返事が返ってきた。


「え?」


 オサムは予想外の事に驚いて立ち止まった。

 目を凝らすと暗闇の奥でかすかに動く人影が見えた気がした。


「だ、だれ?」


「えーと、ここに住んでるヌシです~。はじめまして」


 人影が丁寧にお辞儀をする。

 暗くてその姿は良く見えないが、オサムもつられて頭を下げた。


 声は穏やかで優しく、若い女性のモノに聞こえた。


「あっ、はじめまして」


「あら、礼儀正しいのね~。それで、どちらさまかしら?」


「あっ、えーと、俺はオサム……あの、今日からここに住もうと思って」


「あら、まぁ~! そうなのね。ようこそ、我が根城へ!」


 なにやら良く分からないが歓迎されていた。

 得体の知れない人物だったがヌシと名乗った相手に敵意はないように思える。


 こんな廃墟に居るなんて、もしかしたら魔物の類かも知れない。

 そう焦って身構えたオサムだったが、それすらも余計な心配だった。


「あ、そうだわ。ここって暗いでしょう~? 今、明りをつけるわね」


 そう言ってヌシの影が動いたかと思うと、廃墟の中にいくつもの火の玉が現れた。

 それは城の中でも見かけたもので、この世界で一般的な照明のようなモノなのだろうと察しがつく。


 もちろん城にあった火の玉にはもっと豪華な装飾がなされていたのだが。


「あらためて、はじめましてね~。ヌシです。シャドウっていう種族なのよ~。よろしくね、人間さん」


 その明りに照らされて鮮明になったヌシの姿は、やっぱり暗い人影のままだった。


 そしてエッヘン、と誇らしげに胸を張る人影は、めちゃくちゃ巨乳だった。

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