028:激突のマカダミア①
「全軍、突撃ィーーーッ!!」
ヘーンドランドより北の町。
マヌカ領主、ワンダの号令がマカダミア平野を駆け抜けた。
「うおぉぉぉぉーーーーーーーー!!」
己を鼓舞する雄叫びを上げるのは、緑の平野を染め上げんとする銀の甲冑の群れ。
マヌカ、ミグエル、ヒンデリアの南三都の騎士達に、立ち寄っていたヘーンドランドの騎士をも加えた巨大な連合軍である。
もとよりシュガルパウダンが独自に戦力をかき集めていた事もあり、その騎士の数は帝国都心を守る上級騎士団にも匹敵する巨大さであった。
「ギシャアァァーーーーーーーー!!」
そんな北方より流れてくる騎士達に対するは、南の森から飛び出して、ヘーンドランドに集合していた魔物達だ。
ヘーンドランドに隣接するラムズレーンの森と、そこから東に位置するウィボボンスキの森に住む魔族達による、こちらも連合軍である。
魔族達もまた、巨大な騎士連合に負けず劣らずの大軍勢であった。
辺境の平野にて二つの巨大な集団が地面を打ち鳴らし、正面を切ってぶつかりあう。
その様子はまさに合戦であり、人類と魔族との戦争が再び口火を切る瞬間そのものだった。
「うおぉぉぉぉーーーーーーーー!!」
「ギシャアァァーーーーーーーー!!」
二つの殺意の塊がぶつかり合い、マカダミアの平野は一瞬にして怒声と悲鳴に包まれた。
両軍の数はほとんど互角。
魔物は
低級だが、それでも個々の力では騎士よりも魔族が勝っている。
しかし組織としての戦術で勝る人間は、陣形や策略を持ってその力の差を補っていた。
「重装兵、前に!!」
「後ろを守れーっ!!」
白兵戦を得意とする者や練達した騎士達を前衛に、魔術や弓を得意とする者や新兵は後衛からの攻撃や補助へと回る。
指揮や伝達、鼓舞が得意な者はその効果を最大に発揮できるようバラバラに配置されている。
適材適所の平凡な戦術だが、その効力はこれまでの戦いで十分に実証されてきた。
絶え間ない衝突音があちらこちらで鳴っている。
剣も鎧も砕け散り、飛沫を上げて鮮血が大地を染める。
戦場の空を乱れと跳ぶのは矢だけではない炎や水の球体だ。
確かな実態を持った光の線の跡もそれに交じる。
異形の叫びは、人のモノなのか、魔のモノなのか。
まるでファンタジー映画のワンシーンのようなド派手な戦いが、この世界で起こる人魔の戦争の姿である。
白熱し、拮抗する戦場。
その結末を分つのは、いつだって強大な力を持つ英雄の存在だった。
魔物側の英雄は、多くの場合
二つ名はその魔物の外見的特徴から付けられるが、それは危険な魔物をできるだけ識別し、無用な被害を減らすための帝国の策だった。
そして出来るだけ迅速にその魔物を討伐するための符丁でもある。
個の力が強い魔族においても突出した二つ名のその力は、もはや人の届かぬ域にある事がほとんどだ。
戦況に与える影響力もそれだけ大きい。
対して人間側の英雄として有名なのは勇者であるが、それだけではない。
勇者に匹敵する実力を持った騎士も存在する。
その最たるものが
帝国中の騎士達が憧れと恐れを同時に抱く特別階級。
彼らは、並みの騎士では束になっても歯が立たないような危険な魔物を単独で討伐するほどの規格外ばかりだ。
才能に恵まれ、強い強いともてはやされる騎士がいても、そのほとんどは
白金に辿り着く騎士はほんの一握りしかいない。
たとえ金級が苦戦するような相手ですら、彼らは鼻歌交じりに殺せてしまう。
金と白金には、それほどに大きな実力による差があった。
そうでなくては白金級にはなれないのだ。
故に、白金級が規格外なのではない。
規格外だから白金級なのである。
彼らは魔物とは違う、人でありながらまるで別種の怪物なのである。
しかし、そんな階級は持たずとも白金級に匹敵する戦士がこの戦場にもいた。
シュガルパウダンの切り札であり、最強の傭兵。
誇り高きエルフの騎士、オリビンだ。
エルフの戦士達が好んで使う軽装備と、術式を仕込んだ細身の剣。
強靭な肉体と卓越した剣技で前線を押し上げる戦士として、戦場では常に先陣を切る。
白金級の騎士達は、危険な魔物がそうであるように、その功績や戦う姿から二つ名を付けられる事が多い。
オリビンもまた、その域に達していた。
オリビンは戦場では常に最前線に躍り出る一方で、魔族の返り血を受ける事を極端に嫌う。
真白なままの鎧で戦場を駆け抜けるその姿から付いた二つ名は『白き流星』のオリビン。
その白い流星が魔物を蹴散らしながら平野を駆け抜ける。
主であるシュガルパウダンより受けた己の使命を果たすために。
鋭い視線が、その目標の姿を探してギラリと光る。
その相手は、オサムである。
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