第一章:ヘーンドランド

009:揺れ始める世界


 ~前回までのあらすじ~


 異世界に転移してしまったオサム。

 仲間達から最弱認定されて追放されたけど、なんとかなりそうだった。

 あとなんか呪われた幼女になつかれた。



 ◆



 オサムがこの世界に来てから数日が経った。


 オサムは住処とする廃墟の修復を続けながら、シャドウという人影の姿をした魔族であるヌシと、遺物とよばれる不思議な存在であるドリーと共に、至って平和な毎日を過ごしていた。


「あらあら。オサムくん、帝国に戻るの~?」


「はい。帝国というか、帝国の領土に戻ってみようかと。あの国王にもう一度あえたらと思って」


 オサムにはドリーの呪いを無効化する不思議な力があるらしい。

 そのカギはオサムのレベルにある気がしているのだが、そのレベルを確認する術が中々ない。


 オサムが知る限りでそれが出来るのは、異世界から召喚された後に出会ったあの帝国の国王だけだった。


「そうね~。確かにあの国王ならレベルを確認できるのよね」


「それにここを修復するための資材も欲しいですから。その視察もかねて街に行ってみます」


 建物の修復にはそれなりに資材が必要だ。

 ここまで使えそうなものを探してなんとかしてきたが、やはりちゃんとした素材が欲しい。


 そのためには、そろそろ帝国の通貨を稼ぐ手段を考える必要があった。


 今のオサムはヌシの住処に居候させてもらっているニート状態。

 というかヒモである。


 一人の男として、このままヌシに頼りっぱなしではいたくなかった。

 そんなわけで、実はヌシに良いところを見せるために、オサムはこっそりと帝国での働き口を探すつもりなのである。


「あら、それは頼もしいわね~。じゃあ、さっそく準備しましょうか」


 そこからのヌシの行動は迅速で、次の日には『マウ』という馬みたいな魔物をどこからともなく連れてきて、帝国行きの馬車を用意してくれていた。

 他にも帝国の領土で目立たないように、帝国で流行しているらしい服や、移動の間のランチなども手渡された。


 準備万端だ。


「オサム、似合ってる」


「そう? ヘンじゃないなら良かったよ」


「ヘンじゃない。むしろかっこいい」


「そ、そうかな?」


 ドリーがキラキラした眼差しを向けながらそう言ってくれる。

 カッコイイなんて言われ慣れていないオサムはただただ照れた。


 オサムは元の世界の学生服姿から、この世界の貴族風の格好にスタイルチェンジしていた。

 ヌシが用意してくれた服装だ。


(でも、なんでヌシさんが人間の貴族の服なんて持っていたんだろう……しかも俺のサイズにぴったりだし……)


 ヌシに聞いても誤魔化されてしまったので、オサムはそれ以上は深く考えないことにした。


「では、行ってきます!」


「行ってくる」


「気をつけてね~」



 ◆



 それからマウの馬車に半日ほど揺られ、オサムは無事に帝国に辿り着いた。

 馬車での移動は近くまでにして、そこからは徒歩で行くことにした。


 マウは馬によく似ているが、左右の目が三つずつあったり、尻尾が鞭のように鋭かったりと、いかにも魔物っぽい姿をしている。

 さすがにそのまま連れて帝国に近づくのは危険だと思った。


「ここが帝国か」


「すごい人間の数」


「ドリー、はぐれないようにね」


「わかってる。私たちは一心同体」


「うん」


 当然のように付いて来たドリーと手をつなぐ。


 ドリーが偉大なる遺物オーパーツである事に気づかれると、それを狙う骨董屋や魔道具の売人に目を付けられる可能性が高いらしい。

 ひどい場合には誘拐される危険もあるらしいので本当はヌシと一緒に廃墟で待っていて欲しかったのだが……それは「一心同体」といういつものセリフで却下されてしまった。


(何かあった時にドリーがいてくれた方が、俺も安心ではあるんだけどね……)


 ドレインデッドの力がなければ、であるオサムのステータスは赤子以下なのだ。


「とりあえず、木材とか石材を売ってるお店を探そうか」


「わかった」


 ドリーと二人、帝国の町を歩き出す。


 ここは『ヘーンドランド』という名の、帝国領土の中では小さな町だ。

 場所も領土の中で一番端にあり、オサムたちの住む廃墟からは一番近い町になる。


 オサムは資材屋を探しながら、何か情報が得られそうな場所を探して歩いた。


 帝国の国王がいるのはもっと領土の中央にある大都市なのだろうが、当然ながら警備も厳しいだろう。

 もしかしたら通行証のような物が必要かもしれないし、一緒に通行料や入国手続きのようなモノも求められるかもしれなかった。


 このヘーンドランドでも入国の手続きはあった。

 ただ、門番の兵士たちはやる気なく目視で人間かどうかとチェックするだけで、もはや形だけの審査のようだった。


 オサムたちにとってはラッキーだが、町の治安が心配になる。


(さすがにヌシさんが一緒だったら止められたのかな……? あれじゃあ、少し偽装されれば人型の魔物に簡単に侵入されそうだけど……)


 そんな事を考えながら歩いていると、何か違和感を覚えた。


「……?」


 誰かに見られている感じだった。

 普通に歩いているだけで、妙に視線を感じる。


 しばらく歩きながら周囲を観察していると、すぐにその理由はわかった。


 ドリーだ。


 すれ違う男達が皆、ドリーを見て振り返っている。


(あぁ、なるほどね)


 と、オサムは納得した。


 もはや身内であるオサムが言うのもなんだが、周りの女性と比べてもやはりドリーは飛び抜けて可愛いかった。


 短めに揃った黒髪は艶やかで、その黒とは対照的に穢れ一つない肌は白く瑞々しい。

 透き通った水面のような青い大きな瞳、小ぶりな桃色の唇。

 それぞれのパーツは精巧な人形のように整ったバランスをしている。


 今はまだ幼いが、将来は絶世の美女になるのだろう。

 なんてオサムも勝手に想像していた。


 ちなみにドリーもオサムと同じ帝国風の服装に衣装チェンジしているのだが、それも驚くほど似合っていた。


 一応、貴族を相手にバカを起こす輩は少ないだろうとヌシがこの服装を選んでくれたのだが、それでもあまり注目を集めるのは良くない。

 遺物である事も隠さなければならないし、後先考えないような妙な輩に絡まれても面倒だった。


 とにかく、いつでもドリーを守れるように気を付けなければ。


「よお、兄ちゃん。すごい上玉を連れてるじゃないか。ぐへへ」


 オサムがそう思っているそばから、さっそく妙な輩に出会ってしまった。

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