017:布に隠れし物ども
「ここがラムズレーンの森か」
オサム達は万屋のアンに案内され、ラムズレーンの森を訪れていた。
といっても、ラムズレーンの南門を抜ければ目の前であり、案内されるほどの場所でもなかった。
オサム達がヘーンドランドを訪れたのは東門からだったため、その森を間近で見るのは初めてだ。
町へ来る途中には、確かに近くに森があるとは思っていた。
だが、そもそもヘーンドランドが帝国の端の方にあるため、辺りには森や山などの大自然はいくらでもあった。
「そうでーす! 到着ですよー!」
案内役のアンが両手を森の方へバーンと広げ、元気に言う。
真っ直ぐに伸びた針葉樹みたいな木々が並ぶその景観は、オサムにも馴染みのあるものだった。
オサムが生きて来た元の世界の山にもよく似ている。
町の人間が良く出入りするだけあって、かなり人の手で整備されているのだろう。
それは野放しの大自然というよりも、人間の生活領域に近いものに思えた。
「実は手入れされているのは入り口だけなんですよ。森の奥は私たちの領域ではありませんから。そこには手を付けないのがこの町の習わしなんです」
どうやらオサムの考えていることが顔に出ていたらしく、アンが説明してくれた。
あるいはこれまでにも人を案内してきた経験からかも知れないが。
「では中へ行ってみましょう!」
「魔物の動きが活発になってるって聞いたけど、大丈夫なの?」
外から見るだけでは下見の意味がない。
オサムとドリーだけなら少し魔物に襲われるくらい平気だろうが、戦闘力などなさそうなアンが一緒となると少し心配だった。
森の中で奇襲されるような事態になれば、守り切れる自信もない。
「奥までいかなければ大丈夫です! ちょろっと中の様子を見るだけですから」
「そっか。なら、案内してもらおうかな」
地元の人間がいうなら大丈夫なのだろう。
オサムはアンの言葉を信用する事にした。
領主であるシュガルパウダンもまだ大きな動きはないと言っていたし、大丈夫だろう。
森の近くには野生の生物の姿もある。
豚の顔をした鹿みたいな生き物や、風船みたいに膨らんだ鳥。
それが魔物なのか、この世界では一般的な動物なのか、オサムには判断がつかない。
少なくとも危険はないように見えた。
「はーい! そうこなくっちゃですよー! レッツ、ゴひゃあああ!?」
アンが出発の勢いのまま地面の凹凸に足をひっかけて、盛大に転んだ。
「あの、大丈夫……?」
ここまでの道案内で分かった事がいくつかある。
まず一つは、ラムズレーンの森は案内がくらい近場だという事。
そしてもう一つは、このアンという万屋は注意力が散漫であるという事だ。
そう、彼女はドジっ娘なのである。
屋敷を出てからこれで三回目くらいのハプニングだが、これまでも転べば盛大にスカートがめくれたり、水を被れば胸元が集中的に透けたりと、アンがなぜかエッチなドジを踏む体質らしい。
恐らく、森の中でもド派手に転んでは植物のツルに絡まったりするのだろう。
今回もアンは見事にスカートを翻していた。
可愛らしい下着が「コンニチハ」してしまっている。
それが何度目であろうとそこは男子。
とりあえず凝視する以外に選択肢などない。
ピンクだ。
フリルつき。
どの世界でも女子のパンツってオシャレなんだな。
「きゃあ!?」
自分の痴態に気づいたアンがメイド服のスカートを押さえて立ち上がる。
オサムは素早く視線を逸らす。
「……み、見ました?」
「い、いや……ナンノコトカナー」
「で、ですよねー! あ、あはは……さぁ、気を取り直していきましょう!!」
お互いになかったことにして、アンは再び森へと進みだした。
転んだ直後なのに全く足元に注意がいっていないのが逆にすごい。
この気まずいやりとりも三度目になるのだが、それでもこの気まずさが残らないアンの切り替えの早さには正直助かっていた。
本当は、もう少し注意深く行動してくれるのが一番ありがたいのだが……。
「オサム」
アンの後を追おうとするオサムの手をドリーが引いた。
「ん? どうかした?」
「はい」
オサムのパンツへの視線に何かを感じ取ったのか、ドリーが着ているワンピースをめくってきた。
「ぶほっ!? こら、やめなさいって!」
「ん? なんで? オサム、嬉しくない?」
「いや、嬉しくなくはない……じゃなくて! 外でそういう事しちゃダメなんだって!」
「じゃあ住処に戻ってから見せる」
「いや、そういうわけでもなくて……あー、もう!」
これは後で根本的な教育が必要だと思うオサムだった。
ちなみにドリーのパンツは純白だった。
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