2023/12/20
「どういうことですか先生!?」
おれにしては珍しく、いやもう本当に珍しく先生に詰め寄った。宴会をやってる部屋から「トイレ」と言いつつ先生を連れだしたのだ。先生も「まぁ話したいことあるよね」みたいな顔で大人しくついてきた辺り、何かやらかしたような自覚はあるらしい。
「まぁ……いいじゃん。ノリだよノリ」
「よくないですよ!」
住人も使用人も大方が酔っぱらって誰も来ないのをいいことに、廊下の奥の暗がりでぼそぼそと話し合った。先生は叱られているときの猫と同じくらい、おれの目を見ない。
「あのー、あれだよ。アレ」
「どれすか?」
「だからほらあの~、あっ、さっきは皆のリアクションを見てたんだよ。なっ」
「今言いながら考えてませんでした?」
「ははは、ほんとほんと。ああいうこと言ったら、犯人に何か動きがあるかと思ってさ~」
先生はヘラヘラ笑いながらおれの肩をポンポンと叩いた。先生、変なテンションだけどもしかして酔っぱらってないか? 他人に飲ませてばかりだと思っていたが、自分でもけっこう飲んでないか?
おれは首をひねった。先生、妙に嘘くさいんだよな。いやいつも嘘くさいんだが、さらにパワーアップしている。全身嘘くさい。
この人、おれにもなんか嘘ついてないか?
「はっはっは! まぁ柳くん、君が死ぬと決まったわけじゃなし」
「何だ急に!? 決まってなくても嫌なものは嫌ですよ!」
「ははははは。まぁ大丈夫だろ。なにしろ柳には殺されるべき動機がない。この家の相続にも、男女関係のもつれにも関与していない。犯人の標的ではありえない」
「いや、そうですけど……」
「そうなんだからいいじゃん! ほら、戻るぞ! もう柳が主役みたいなもんなんだから」
「はぁ……」
やけくそみたいな酒宴は続いた。おれも相当飲まされたが、普段の「飲み会」なるものとは雰囲気全然違ってまったく楽しめないし、緊張のせいかいまいち酔いが回らない。
「なぜじゃ通子! わしのニュー祠案に文句があるというのか!」
大声がすると思ったら織江さんである。壊れためりくり様の祠を再建するための話し合いをしているらしい。番頭の伴さんがホワイトボードを持って立っている。
「もう木の祠は古い! ブラックでメタルでトゲトゲのやつをじゃな……」
「まぁ! わかっていないのはお祖母様の方でしてよ! 大体近頃はですね、めりくり様の伝承はオチの血なまぐさい部分だけがクローズアップされがちなんですけど、本来は村に幸福をもたらす神として崇められていたわけでして、つまり善なる神なんですね。それが残虐性の部分ばかり取り上げられてしまうのというのは実によろしくない。めりくり様本来のお姿を損なうことですわ。ですから、ここは昔ながらの木造でほっとするような外観の祠にするのがよろしいかと。ブラックでメタルでトゲトゲだなんてオホホ、ちゃんちゃらおかしくって」
すげー喋るな通子さん……。
「解釈違い! 解釈違いじゃ!」
「オーホホホホホホ。あら、もう氷がありませんわね。取って参りますわ。伴さんはここでホワイトボードを持っていてちょうだい」
通子さんは高笑いしながら部屋を出ていく。深窓の令嬢ってまさかあんな感じが基本じゃないだろうな……などと考えていたら、先生に脛を蹴られた。
「いって!」
「バカ柳、お嬢に貼りついとけっつったろ」
「その指示まだ生きてたんすかぁ?」
まぁ、言われたものはしかたない……おれは急いで通子さんの後を追った。
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