2023/12/11
一通り屋敷の中を見せてもらったあと、おれたちは最初にいた応接間に戻ってきた。
「なにか飲み物を持ってこさせ――いえ、私が用意してまいりますわ。これでも紅茶には少しうるさいんですの。先生方は紅茶はお好き?」
手づから淹れてくれるというので、通子さんに任せることにした。先生と二人で話しておきたいこともある。
通子さんが部屋から出て行ったとたん、先生は営業スマイルをひっこめた。
「なんだ柳、通子さんについていけよ」
そういえば張り付けといわれてたんだった。いやでも、ちょっと待ってくれ。
「すみません、ちょっと話したいことがあって……田中さんのことなんすけど」
「あの異様に怪しいマスク・ド・田中か」
「それです。やっぱ怪しいですよね。首なし死体が出た直後に、顔がわからない男が訪ねてきて――とか」
「ま、ミステリーじゃ常套手段かもな。田中のマスクを剥ぎ取ると、死んだはずの次男が現れるってわけだ。ははは! ナシ!」
「ナシですかね」
「さすがにバレるだろ……古い時代のミステリ小説ならまだしも、最近はDNA鑑定とかあるわけだし」
「……ですよねぇ」
ま、実際先生の言うとおりだ。田中氏が謎の人物であることには変わりないが、死体の入れ替えトリックは実際リスクが大きいだろう。それに目的がわからない。
「話は終わりか? じゃあ通子さんを追いかけろ」
「今っすか?」
「当たり前だろ! このわずかな間に彼女が三人目の犠牲者になっていたらどうするんだ?」
で、応接間から追い出されてしまった。
ええと、通子さんはどこに行ったんだろう? 厨房の方かな……さっき案内してもらった記憶を頼りに厨房に向かうと、運よくトレイに紅茶のポットとカップを載せた通子さんと出くわした。
「あら、柳さん」
「通子さん、よかった……」
思いがけずほっとしてしまった。先生があんなことを言うから、本当に彼女が三人目の犠牲者になったらどうしよう……なんて考えてしまったのだ。
「まぁ、柳さんは私を心配してくださったの? 嬉しいわ。お優しいんですのね」
「はは、まぁ……」
日頃先生から辛辣な扱いを受けているせいか、通子さんの優しい対応が半端なく効く。癒される……。
ふたりで応接間に戻ることになった。話すことがない……と己のコミュ力の低さにしょんぼりしていたのだが、通子さんが「兄の好太郎にも困ったものですわ」と話しかけてくれたので助かった。
「まぁ、こんな非常時ですから……神経質になるのも仕方ないですよ」
「そうかしら。まぁ兄の立場になってみれば、知らない方を警戒するのも致し方ないことかもしれませんわね」
通子さんはそう言って唇を尖らせた。兄の立場ってどういうことだ?
「次兄の杉二郎と父が急死した以上、父の財産の大半が兄のものになるはずですもの。現金に不動産、株券……会社もいくつか経営しておりましたし」
「あっ」
それって十分殺人の動機になるよな……なんで今まで思いつかなかったんだろう。となると一番危ないのは、通子さんじゃなくて好太郎さんじゃないのか? まずい、死亡フラグが現実味を帯びてきた。
先生に相談するか……などと考えているうちに、おれたちは応接間の前まで戻って来ていた。
「お待たせしました。先生――あら?」
通子さんが首を傾げた。「先生、いらっしゃらないわ。どちらに行かれたのかしら?」
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