2023/12/10

「こちら、好太郎お兄様のお部屋ですわ〜」

「ちょっ、バカ! 引きこもってんだから当然のように開けるな!!」

 突然バターンと私室のドアを開けられて、窓の前にバリケードを作っていたらしい好太郎さんは悲鳴のような声を上げた。

 通子さん、居間だのダイニングだのキッチンだのの共有スペースのみならず個人の部屋もガンガン案内してくれるので、こんなときおれはどんな顔をして見てたらいいのかわからない。一方、先生は平気な様子でスンッとしている。メンタルが鬼である。

「だってマスターキーがあるんですもの」

「それあったらどこ開けてもいいわけじゃないだろ! 気を遣え気を!」

「先生方、すみません。好太郎兄はこの通りのビビリですけど、クズというほどではございませんので……」

「含みがあるな!?」

「隣が私の部屋ですわ」

「おい聞けよ人の話を」

 さっき派手に死亡フラグを立てたにも関わらず、好太郎さんはまだ無事だった。結構なことだ。

 さて通子さんの部屋は、兄である好太郎さんの部屋よりも明らかに狭い。豪華な調度品も、大きなベッドもない。カーテンやベッドなどは女性が好きそうなパステルカラーで統一されてはいるが、四畳半ほどのささやかな空間だ。

「お父様が跡取りにならない女風情には部屋など要らんとおっしゃったので、物置だった場所を使っているのですわ」

「それは……その」

 通子さんはケロッとした表情をしているが、いきなりヘビーな男尊女卑思想が出てきてドン引きしてしまった。こんなに部屋数の多い屋敷に住んで、場所に余裕がないわけでもないだろうに、そんな理由で娘にだけ部屋を与えないなんて……。

「この部屋は、お母様がまだ生きていた頃に用意してくださったのですわ。ですから私、このお部屋がとても気に入っていますの」

 通子さん、泣けるエピソード持ちじゃないか……。

「素敵なお部屋ですね」

 先生は営業スマイルを浮かべながら、色合いがいいだの収納が上手いのと褒めちぎっている。

「あら、嬉しいわ先生。お上手ですのね」

「いやいや、本心ですよ。羨ましいくらいだ。私はどうも片付けが苦手でしてね……」

 嘘である。

「まったく、この非常時におかしな客が多くて困ったもんだ……」

 部屋から顔を出した好太郎さんがため息をついた。まぁ、気持ちはだいぶわかる。

「あらお兄様、お客様の前でおよしになって」

「そうは言っても本当のことだろ。まぁばあさんが呼んだ霊能力者の先生がたは身元が知れてるからまだしも、あの田中って奴は何なんだ?」

「杉二郎お兄様のお友達だそうですわ」

「それがまず怪しいだろうが! 証明するものが何一つないぞ!? まぁそもそも本当にあいつの友人だったとして、ろくな奴がいた試しがないんだが……」

 などと言いながら部屋に引っ込んでいく。やっぱり一人で閉じこもる方針は変わらないようだ。

「すみません、兄が無作法を……」

「とんでもない。お気になさいませんよう」

「ありがとうございます。えーと、こちらが使用人の部屋ですわ」

「キャーーーッ!!」

 ちょうど中で着替えをしていた番頭の伴さんが、胸元を隠しながら悲鳴をあげた。通子さん、せめてノックしてくれ!!!

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