2023/12/09

 それはいかにも祠――の残骸だった。ヤバい神様のものだけに、下手に片付けることもできないのだろうか。無惨なかたちで庭の片隅に放っておかれている。元々は木製の小さな社のようなものだったらしいが、今はひしゃげてほぼ跡形もない。

「こちらがめりくり様の祠ですわ。専門の業者や神職の方がまだ来られないものですから、仕方なくそのままになっておりますの」

 通子さんがため息まじりに話す。

「ずいぶん派手に壊したものですね」

 先生が眉をひそめ、もっともらしいシリアスな顔で通子さんに話しかけた。通子さんも真面目な顔でうなずく。

「次兄の杉二郎すぎじろうが改造痛車の運転を誤りまして……お恥ずかしいわ、格好つけているくせに縦列駐車もできませんのよ。なのに壊しても『そこに祠があるのが悪い』などと平気な顔で申しましたの。父もこの機会に祠を撤去しようなどと言い始めまして……薄情なようですけど私、あれでは祟りを受けても仕方がないと思いますわ」

 祟りか。通子さんは地元民だから、めりくり様に対する感情がおれたちとは違うだろう。おれは彼女のように「めりくり様の祟り」を信じることができない。先生なら尚更だろう。

 祟りでないとすれば、誰かがめりくり様の仕業に見せかけて殺人を犯したということになる。なら誰が? なんのためにそんなことをしたんだろう? そして伝承になぞらえるなら、あと一人犠牲者が出るはずだ。それは一体誰になるんだ?

「うーん、難しいですね……」と、先生が唸った。「村全体に妖気が漂っているせいで、めりくり様がどのような状態なのか判断がつきません。申し訳ない、私の不徳の致すところです」

 先生、ほんとウソがホイホイ出てくるな。いっそ羨ましいくらいだ。

「先生ほどのご高名な方がそう仰るなんて……やはりめりくり様はお怒りですのね。三人の生贄が揃うまでは、姿をお隠しになっているのでしょう……」

 通子さんはそう言って、両手を胸の前で握りしめた。おそらく、三人目の犠牲者が出ることを確信しているのだろう。

 そのとき、通子さんからは見えないように、先生がおれに目配せをした。おれは先生が視線で示した方向を向いた。

 屋敷の窓に人影が見えた。どうやらマスクをかぶっているらしい。さっきの田中とかいう奴が、おれたちを見張っているのか? なんてテンプレ的に怪しい男なんだ。

 田中氏はおれがそっちを向いたことに気づいたのか、さっと姿を隠してしまった。先生が口を開いた。

「ここで手がかりを得ることは難しい。一旦屋敷に戻りませんか?」

 で、おれたちは屋敷の中に引き返した。正直ほっとした。なにしろ寒かったのだ。

「では、今度は屋敷の中を案内しますわね」

 通子さんはツアーコンダクターのように、おれたちを先導し始めた。

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