2023/12/04

 中年男性(天婦礼家の番頭で、伴等ばん ひとしという名前らしい)に案内された先は、客間でも大奥様の私室でもなく、殺人現場だった。「こちらでございます」で速攻血まみれの死体を見せられて、おれはもう少しで吐くところだった。

「ははぁ、これは……」

 先生もさすがに顔をしかめ、眉をひそめている。

 広い寝室だった。和室だが奥には絨毯が敷かれ、和洋折衷の洒落たつくりになっている。絨毯部分にはキングサイズのベッドが置かれており、その上に大の字になった男の死体があった。

「腕がありませんね」

 先生が言った。おそるおそるもう一度見ると、確かに服の袖が両方ともぺったんこだ。よく見てるな、先生。

 否応なしにめりくり様の伝承を思い浮かべてしまう。確か、死体の首と両腕、両足がなくなっていたという話だった。やっぱりこれは――

「祟りじゃー!」

 いつのまにかおれたちの背後にやってきていた織江さんが、ここぞとばかりに叫んだ。「めりくり様の祟りじゃ! 祠を壊したことをお怒りなのに違いない!」

「おお、旦那様……なんということだ……」

 番頭の伴さんは真っ青になって震えている。ということはこの死体、この屋敷の当主のものなのか。

「さよう。わしの息子ですじゃ。早世した亭主に似てロクな死に方はせんと思っておったが……」

 織江さん、息子が亡くなったばかりというのに言いたい放題である。この当主とやらにも恨まれる事情が色々あったのかもしれない……。

「うわーっ! お、親父が死んでる!」

 おれたちの間から、男が一人部屋に押し入ってきてそう叫んだ。ということは、彼がこの家の長男か?

「そう、俺は天婦礼家長男、天婦礼好太郎こうたろう! まさか犯人はこの屋敷の中にいるのか!? クソッ、こんなところにいられるか!」

 と、しゃべるだけしゃべって部屋の外に飛び出していってしまう。

「こ、好太郎様! 危険です!」

「止めてくれるな伴! 俺は部屋に戻る!」

 バタバタと走り去っていく。あれ? 今のすごいフラグっぽかったな。あの人もしかして死ぬの?

「まぁ、おばあ様! それに伴まで! 一体なんの騒ぎですの?」

 入れ替わりに、パタパタと着物姿の若い女性が走ってきた。黒髪をなびかせた清楚な美人だ。

「おお、通子つうこお嬢様! ご覧になってはいけません! お父様がお亡くなりに……」

「なんですって、お父様が……!」

 通子さんは両手を口元に当てると、その場にヘナヘナと座り込んでしまった。

「おい柳」

 先生が小声でささやきながら、おれの脇腹をつついた。「助けてさしあげろ」

「ふぇ? な、なんすか?」

「お嬢様だよ。励ますとかなんとか、いい感じに取り入って来い」

「ええ!?」

 ひどい無茶ぶりだ。自慢にもならないので普段は言わないが、おれは女性にモテたためしなど一度もない!

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