2023/12/03
「……ってことでしたけど、マジで祟りとかあるんすかね……」
「あるわけねぇだろ。いい加減にしろよ柳」
依頼の件がまとまり、織江さんが帰った後、客のいなくなった事務所でそういう話をした。
こんな話、むろん依頼者の前では絶対にやらない。先生は依頼者の前では冷静かつ優しげに、また威厳をもって振る舞っているが、二人だけになるとそんなものは必要ない。先程うんうんとうなずきながら聞いていたはずの織江さんの話を、「あるわけねぇだろ」と切って捨てるのだった。
「祟りなんかねえよ。やってんのは人間だよ人間」
「はぁ、まぁ……そりゃそうですが。しかし現実に首なし死体が出てるんですよね?」
「それがどうした? 人間にだって首なし死体は作れるだろ」
まぁ、そうなのだが。どうもおれはビビリが治らなくて困る。
「それに天婦礼家の次男坊、恨みを買う事情が山程ありそうだしな……」
先生はデスクトップを操作しながらスマホで電話をかけ始めた。コミュ強の先生は人脈が異様に広い。十分もしないうちに「金遣いが荒く、女性・友人関係でモメまくり、定職に就かず迷惑系YouTuberを名乗っている」という情報を引っ張ってきた。なお別名だけど全部SNSに載ってた、ということなので、被害者には悪いがあまり頭はよくなかったらしい。
「これじゃ動機で犯人を特定するのは難しいな……」
「先生、犯人探しするんですか?」
「するだろ。祟りを止めなきゃならないんだから」
「はぁ……」
やってることは霊能力者というより探偵だ。そもそもこの禅士院雨息斎という男、霊能力はないが異様に発達した聴力とコミュニケーション能力、それに金の力と暴力を駆使して、アレコレの事件を「これでもう霊障はないでしょう」などといい感じに納めてきた実績を持っている。
「ま、なんとかなるだろ。とりあえず天婦礼村とやらには一度行かなきゃならんな」
先生はそう言ってまたスマートフォンを見る――と、事務所の固定電話が鳴った。血なまぐさい話をした後なもんだから、ついギョッとしてしまう。
「ホアァ」
「何ビビってんだよ柳……」
先生はため息をつくと、立ち上がって自分で電話をとった。
「もしもし」
先生はそこで言葉を切り、じっと黙って受話器を耳に当てている。こういうときは、おれも可能なかぎり静かにする。前に「呼吸がうるさい」と言われたことがあるので、手で口を抑えてひたすら待つ。
少しすると先生は電話を切り「さすがテンプレ村だな」と呟いた。
「なんですか?」
「お約束のやつがきたぞ。『この件から手を引け』だとさ」
「ホアッ!?」
「だからいちいちビビるなっつってんだろ!」
もちろんそんなものにビビる先生ではない。おれたちは警告電話を無視して天婦礼村を訪れ――そして冒頭の場面に至るというわけなのだった。
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