2023/12/02

 今、先生とおれは某県山中にある天婦礼てんぷれ村というところに来ている。ど田舎にあるわりには栄えており、特に村長を務める天婦礼家はさっき述べたとおりの豪邸に住む金持ちだ。その地位に至るまでには聞くも涙語るも涙の歴史があるらしいがそれは置いておいて、その村からひとりの老婆が、東京にある先生の自宅兼事務所を訪ねてきたのは、ほんの二日前のことだった。

「先生のお噂はかねがねお聞きしております。インスタもフォローしておりますでな……」

 老婆は現当主の母、織江と名乗った。年齢のわりには元気そうな婆様である。彼女は挨拶もそこそこに話を切り出した。

「わが村には『めりくり様』という土着神が祀られておりましてな……普段はお優しく、ことに十二月になると多くの恵みを村にもたらすとされておりますのじゃ。しかし一方で、大切にせねばおそろしい災いを招く神でもあります」

 なんでもつい先日、彼女の二番目の孫――天婦礼家当主の次男が、変死を遂げたのだという。その彼は死の数日前、自宅庭の隅にあるめりくり様の祠を壊してしまったのだそうだ。

 元々めりくり様のことをあまり信仰していなかった彼は、祠を直そうとするどころか、めりくり様の祟りを一笑に付した。そのうえ「祟れるもんなら祟ってみろ」などと、テンプレ的被害者第一号の振る舞いをほしいままにしたという。

「その結果、変死体で発見されました。しかも、死体には首がありませんでな……」

 めりくり様、結構えぐい。

「一応警察に通報はしましたが、この辺りの警察はちょっとびっくりするほどやる気がない上に無能でしてな。容疑者の特定などということはとてもとても……しかしいずれ神の祟りということであれば、警察などアテにできますまい」

 先生は織江ばあさんの話を、うんうんとうなずきながら真剣な顔で聞いている。こういう仕事をしていると、年に一度は「祟りじゃ〜」と言う老婆に遭遇するものだ。

「一度めりくり様を怒らせてしまうと、祟りは三人死ぬまで続くと言われております。わが村の伝承では……」

 織江さんによれば、「めりくり様の伝承」とは次のようなものだった。


 昔むかし、めりくり様という神様が村にやってきて、冬の寒さに苦しむ村民たちをよく助け、たくさんの贈り物をしたという。

 多くの村民は喜び、めりくり様に感謝した。が、村長だけはよく思わない。めりくり様に村の中心的立ち位置を奪われ、承認欲求の虜だった彼は嫉妬に燃えたのだった。

 村長はめりくり様の従者を殺害し、遺体の首、両腕、両足を切ってばらばらにし、捨ててしまった。するとめりくり様は当然お怒りになり、村長とその息子たちを殺してそれぞれ首、両腕、両足を切断し、従者の胴体にくっつけてそれを償いとしたという。

 村民たちはめりくり様へのおそれと感謝のために祠を作り、それは今日まで大切にされている――いや、されていた。


 というわけで、結構ホラーだった。

「……ということは織江さんは、あと二人被害者が出るとお考えなのですね?」

 話を聞き終えた先生が言うと、織江さんは深くうなずいた。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る