【アドベントカレンダー】禅士院雨息斎のブラッディフォークロア劇場
尾八原ジュージ
2023/12/01
「ウワーッ! 人が死んでる!! そのうえ、外界との唯一の繋がりだった橋が突然壊れて警察が呼べないってどういうことー!!?」
「情報量が多い!」
思わずでかい声で突っ込んだおれの足を、草履を履いた先生の足が思いっきり踏んだ。
「うるせぇ
「スマセン!」
だからうるせぇよとおれのすぐ隣で舌打ちする着物姿のイケメンの名は何を隠そう
おれたちは今、とある屋敷の玄関に立っている。三和土にはいくつかの靴がきちんと揃えて置かれ、よく磨かれたつやつやの床板が廊下の奥まで続いている。老舗旅館を思わせる立派な和風建築だが、なんと個人宅だ。先生とおれは、除霊の仕事のためにこの家に招かれたのである。
さて、その廊下の奥から転がるようにひとりの中年男性が走ってきた。先ほど叫び声をあげた人物だろう。顔にスマートフォンを当て、「えっ!? 老朽化!? いつから!?」などと叫んでいるが、おれたちがいるのに気づくと露骨にハッとした顔をして、ようやく静かになった。
「どうかなさったんですか?」
先生が、先ほどおれの足を踏んづけたときとは別人のような落ち着いた声をかけた。
「はっ!? ええと、どちら様で?」
「失礼。私は禅士院雨息斎と申します。こちらは助手の柳」
「ぜんしいん……ああ! 承っております! 大奥様~!」
男はまた叫びながら家の中に走り込んでいった。相当慌てているらしく、彼が角を曲がった直後にバターン! と全身で転んだらしき音が聞こえた。
「ていうか大丈夫ですかね、人が死んだって……」
おれは先生の顔を下から覗き込む(先生、背が高いのだ)。先生は落ち着きはらって「ま、後で調べよう」などと言っている。
「ていうか橋って、五分前くらいに俺たちが渡ってきたやつじゃないか? 危なかったな」
「ウワーッ! それだ! し、死ぬところだったじゃないすか!」
「だからうるせぇよお前は! 耳に響くだろ」
そんなことをしゃべっていると、奥からさっきの中年男性がもう一度走りだしてきた。
「せ、先生がた、おまたせいたしました……どうぞこちらへ」
「では失礼します」先生はスンッと落ち着き払った顔をする。こういうときのオーラは大したものだ。中年男性はペコペコ頭を下げている。
「なにとぞ祟りをお鎮めください……」
「おまかせください。そのために参りました。さ、柳くん行こうか」
先生はそう言って、慣れた様子で履物を脱いだ。その泰然とした様子を見て、中年男性も少し落ち着いたようだ。
だがおれは知っている。
この禅士院雨息斎、霊能力などかけらもない、インチキ霊能力者なのである!
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