2023/12/05
女性を励ますだの慰めるのだの、そんなの絶対先生の方が適任に決まっている。が、先生は視線でものすごい圧をかけてくる。あくまでおれにやらせるつもりらしい。
(ど、どうしよう……)
とりあえず動かねばなるまい。おれは通子さんに駆け寄り、へたり込んでしまった彼女の近くにかがみ込んだ。
「えーと、だ、大丈夫ですか?」
「ええ……ごめんなさい、見苦しいところをお客様に……」
通子さんは俯きながらも、一応受け答えしてくれる。部屋の外からとはいえ、父親の変死体を見てしまったようだ。さぞショックを受けただろうに、なかなか気丈な人らしい。
「あのぅ、ところでどちらさまでしょうか?」
そういえば名乗っていなかった。これではただの不審者である。
「や、柳と申します。その、ええと」
美人の通子さんが黒目勝ちの瞳でじっと見つめるもので、なおさら緊張してしまう。
「……もしかして、お祖母様がお呼びした霊能力者の方かしら?」
「あっ、ハイ、いえ、それはこちらの着物のほうでして、えーと、私は助手でございます。エヘヘ」
情けないが、どうしても小物ムーブをしてしまうのがおれである。
ここで先生がそれ相応の威厳を漂わせながら「禅士院雨息斎と申します」と通子さんに名乗った。
「お嬢さん、すみませんが部屋の中を拝見してもよろしいですか? 妖しい気が漂っておりますので、詳しく調べたいのですが……」
さすが先生、口から出まかせがポンポン出てくる。
「まぁ、そんなことが……」と、通子さんは口元に手を当てる。いちいち言動が古風なヒロインである。「ええ、どうぞ。お調べになってくださいまし」
「では失礼します。柳くん、君はここで通子さんたちをお守りしなさい」
「ふぇっ!? な、何するんすか?」
先生の顔が(話合わせろボケが)という感じで一瞬歪んだが、すぐにまたキリッとした表情に戻った。「よくない気配がするからね。結界でも張っておくように」
「け、けっかいですか」
思わず血の気が引いた。
もちろんインチキ霊能力者の助手に、そんなもん張れるわけがない。ないのだがそこは先生、「そんなもんアドリブでそれっぽくやれ」と無茶ぶってくるのである。
実は以前、その無茶ぶりに答えた結果スベッたことがある……おまけにそれを撮影された上SNSに投稿され、なぜかそっちはプチバズッた。最悪である。
先生の顔をよく見ると、おれにしかわからない程度にニヤニヤ笑っている。
「じゃ、頼んだぞ柳くん」
「ええっ、ちょっ、待ってくださいよ先生……」
おれの懇願など意に介さず、先生はさっさと部屋に入っていってしまった。
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