2023/12/15

「そうかそうか、あんたわしの孫か! 飲め!」

「いただきます! うまい! いい酒だ!」

「おう! 飲みっぷりがええわい! 田中お前本名何じゃ!? 本名!」

「田中一郎です!」

「全部本名かい!」

 織江さんと田中さん、なんか仲良くなってるな。先生はニコニコしながら空いたグラスに酒を注ぐ職人みたいになっている。通子さんはボトルに半分くらい入っていた高そうなブランデーをひとりで空けてしまい、呆然と見守るおれの前で「私、なにかおつまみを取って参りますわ~」と立ち上がった。

「柳くん、お手伝いして」

「おっ、おれかぁ……わかりました」

 あくまで彼女に張りついていろという方向らしい。ま、こっちの部屋には先生がいるから大丈夫だろう……めりくり様の祟りが本物だったらどうだか知らないが。

 おれと通子さんは部屋を出て、厨房に向かった。今まさに当主の部屋には変死体が転がってんだよな……あんな飲み会やってて大丈夫だろうか。

「ディナー用のローストビーフ、半分くらいパチッていきましょ。無駄にパーティーするからカナッペ用のクラッカーも売るほどありますのよ」

 通子さんは大きなトレイにどんどん食べ物を載せていく。案外図太いんだよなこの人……なんだか羨ましくなってきた。おれは根っからビビリである。

「柳さんが一緒にいらしてくださって、とっても助かりましたわ!」

 通子さんはそう言いながらおれにトレイを持たせ、自分はテキーラの瓶を両手に一本ずつ持っていく。

「ところで柳さん、あまりお酒をお召しになってらっしゃいませんのね。アルコールは苦手でいらっしゃるのかしら?」

「ええ、まぁ、体質的にちょっと」

 ビビッているのでそれどころじゃない、というのが本音なのだが……酔っぱらってるときに殺人鬼が現れたり、先生に無茶ぶりされたりしたら命に関わる。

「ソフトドリンクもありますわ。遠慮なさらずにお飲みになって」

「あ、ありがとうございます」

 そんな話をしながら廊下を歩いていると、上の方から「ウワーッ!」という悲鳴が聞こえてきた。バタバタバタッと足音が続き、駆け下りてきたのは好太郎さんである。あ、部屋から出てきたのか。

「あっ通子! あとなんか助手の人! 助けてくれ!」

 そう言っておれたちの後ろに回り込む。追いかけてきたのはこの屋敷のメイドさん――だよな。何人もいてわからん……とにかく黒いスカートに白いエプロンをつけた女性が、モップを槍のように構えたまま、ものすごい勢いで階段を駆け下りてくる。

「待てやボケがぁ!」

「まぁ、はしたなくてよ!」

 通子さんはそう言うと、突然右手に持っていたテキーラの栓を歯で抜きとり、グビグビと口に含んだ――かと思うと、駆け寄ってきたメイドさんの顔に向かってブーッと吹きかけた。

「ギャーッ!! 目が!!」

「なにがあったか知らないけれど、落ち着いて! 話しあいましょう!」

 口元からテキーラをポタポタ垂らしつつ言う台詞ではないな……でもメイドさんはその場にへたり込んで「うう……お嬢様……」と泣きだしてしまったので、とりあえず沈静化には成功したようだ。

 放っておくわけにもいかない。おれたちは彼女も連れて、元いた部屋に戻ることにした。

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