2023/12/16
「お、やっぱり連れてきたな」
テキーラでびしょびしょになったメイドさんが連れられてきたのを見た先生は、おれだけに聞こえるような小声でそう言った。
「やっぱりって……先生、わかってたんですか?」
「二階でなんかモメてる声が聞こえてたからな」
先生、異様に耳がいいのだ。地獄耳で入手した情報を「霊視した」などと言って披露することも少なくない。
「何があったか知りませんけど、よかったら話してみてくださいな」
そう言いながら、通子さんはメイドさんの前にショットグラスと塩とライムを一切れ置いた。
「通子お嬢様……!」
メイドさんはいきなりショットグラスの中身を一気に空けると、「うわーん」と派手に泣き出した。
「実はあたしぃ、杉二郎様とお付き合いをっていうかぁ、男女の関係でぇ、ていうか婚約者的なぁ」
「婚約者!? 婚約なんかしてないだろ!」
好太郎さんが大声を出した。そういえば彼のことを忘れてた。ついてきてたのか。
「だってぇ~、結婚しよって言ったらぁ、あ~まぁそのうちな~って言ってたし~」
彼女には悪いけど、それたぶん婚約したつもりはないんだろうな……。
「そんで杉二郎様が亡くなったからぁ、あたしにも遺産来ますよねぇって好太郎様に聞いたらナニソレってぇ」
「いや、籍入れてないから特になんの権利もないかと……」
「ひどいいぃ」
メイドさんは手酌でテキーラを注ぎ始めた。
「まぁ、お気の毒……お兄様、なんとかなりませんの?」
「なんとかって……じゃ、じゃあ形見分けくらいは……」
好太郎さんがそう言った途端、突然部屋のドアがバーン! と開いて別のメイドさんが入ってきた。
「だったら私にもなんかもらう権利ありますよね!? 私も杉二郎様の彼女だったんですけど!?」
「そっちもかよ!!」
「ちょっとおおお!!! いい加減なこといわないでよぉ!!!」
テキーラをあおっていたメイドさんが立ち上がって叫んだ。さらに別のメイドさんが入ってきて、
「あたしご当主様の愛人でしたぁー!」
「そっちもかよ!!」
困った……亡くなったひとのことを悪く言いたかないが、二人がクズだったせいで、このままではめりくり様の祟りをどうこうするどころではない。
「面倒なことになってきたな、柳」
先生がひそひそ話しかけてきた。「これでどんどん人が増えてきた日にゃあ、どう収拾つけたらいいのかわからんぞ」
「先生、なんか考えといてくださいよ……!」
今後のプランが白紙なのに、なんでこんなに涼しい顔をしていられるんだ。慌てているおれに、先生はニッと笑ってみせた。
「まぁまぁ。一応容疑者候補は目星をつけてる。天婦礼村連続殺人事件のな」
「はぁ!?」
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