2023/12/17
おれが思わず大きな声をあげてしまったので、室内にいるほぼ全員がこっちを見た。
「あっ、スミマセン……」
「お前、動揺しすぎだろ。いやぁ、皆さん失礼しました! まぁ、柳くんが驚くのも無理はない話でして」
「へぇ?」
驚いて声をあげるとテーブルの下で足を踏まれ、(いいから話あわせろ)と小声で囁かれて睨みつけられた。
「先生、どうかされましたかの」
織江さんが尋ねる。「もしや、めりくり様の祟りに関して何か……?」
「もちろんです。我々はそのためにこちらにやってきたのですからね」
しまった。隠し子と愛人騒ぎで忘れかけてた。
「てかだれ? この和装イケメン」
テキーラを煽っていたメイドさんが、ものすごく不審そうな目を向けてきた。
「私は禅士院雨息斎、霊能力者の端くれですよ」
そう言いながら立ち姿をキメる先生は、とても「端くれ」という雰囲気ではなく、それどころかいかにも頼もしそうに見える。まぁ、端くれどころか偽物なのだが……。
「たった今、助手の柳くんと相談していたところです。めりくり様と交信を……言葉を交わすことはできないか、とね」
「おお、なんと!」
織江さんが大声をあげた。いい客だなこの人。
「しかし、危険ではありませんかの?」
「もちろん、相手は荒ぶる神ですからね。そんじょそこらの霊と一緒にはできません。しかし」先生は話しながら――というよりはむしろ演説しながら、悠々と部屋の真ん中あたりまで歩みを進めた。
「危険は覚悟の上です。このまま何もせずに、第三の犠牲者を出すわけにはいきませんからね」
何でこんな強気でいられるんだよ。心臓が強すぎるだろ。あまりにデカい声でデカい嘘をデカい態度で吐いているので、案外ギャラリーからのツッコミはない。皆あっけにとられ、あるいは期待に満ちた顔で先生の動きを追っている。
「交信のためには儀式が必要ではありませんの? 準備ができますかしら」
通子さんが尋ねる。
「大したものはいりませんが……そうですね、今このお部屋をお借りしても? ものを少々端によせていただければいいのですが」
「もちろんですわ。お部屋のお掃除をしてちょうだい!」
通子さんの声を聞いたとたん、その辺でキャットファイトをしていたメイドさんたちがピシッと立ち上がり、荒れ果てていたテーブルをあれよあれよという間に端の方に片付け、部屋に掃除機をかけ、空気まで入れ替えてしまった。
「先生、このような感じでいかがでしょうか?」
「すばらしい。注文のつけようがありません。お心遣い痛み入ります……では皆さん、すみませんが少々お静かに願います」
先生、もう交信とやらをするつもりなのか……なんかネタは仕込んでるのか? おれがびびっている間に先生は部屋の中央にあぐらをかいて座り、両手を組み合わせて目を閉じると、ぴたっと動かなくなってしまった。
えっ、マジでこれどうすんの? 何も打ち合わせてないんだが……?
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