2023/12/18
ほぼ全員が、固唾を飲んで神との交信を始めた先生を見守っている。ただ通子さんだけは若干テンション高めにあちこちキョロキョロしているが、たぶんめりくり様が来ているか探してるんだろう――おれはそう思った。おそるべしマイペース。
戸惑ったが、おれも先生の近くにひざをついて座った。一応助手ってことになってはいるし、何かあったらすぐ動けるようなところでもったいぶった顔をしているのがいいだろうと思ったのだ。
時間にして二分くらいだろうか? 待っているこちらとしては、ものすごく長い時間に思えた二分間だったのだが、ようやく先生が目を開け、ふーっと長いため息をついた。すごい。いかにも「疲れた」という感じがする演技だ。
「――柳くん、水をもらえるかな」
そう言った声も掠れている。おれは「ハイッ」と返事をして立ち上がった。荒ぶる神との交信が終わったのだ。先生のことをいたわらねばならない――そういう立場という設定になっている。メイドさんが一人パパッと動いて、おれの前に水を注いだコップを持ってきた。
「どうぞ」
「あ、ありがとうございます……」
さすがはプロのメイド、さっきまで荒れ狂っていたのがウソのようだ。水を渡すと先生は一気にそれを飲み干し、「ありがとう」と言ってコップをおれの方に戻してきた。
「うーん……いや、こいつは……」
ひとりでうんうん唸っている。
正直、おれも唸りたい気分だ。これから何をすればいいのかさっぱりわからない。なにしろ今回は「結界を張れ」とすら言われなかったのだ。白紙にもほどがある。
「せ、先生。どうじゃったかの」
織江さんが前のめりに尋ねた。先生は眉をひそめ、眉間に指を当てて、
「……確かに……それらしきものとの接触に、成功しました」
と、もったいぶって答えた。
「何だって!?」
好太郎さんが大声で叫ぶ。「そんな……めりくり様と交信しただなんて……」
このひとも大概素直だな。
「いや……胡散臭くね……?」
テキーラを喇叭飲みしながらメイドさんが呟く。このひとさっきから鋭いな……と思っていたら、織江さんが「だまらっしゃい! 先生は本物じゃ。本物の霊能力者じゃ」とぴしゃりとやった。すみません、偽物です。
「いや……どうも、大変なことになったな。私ごときでは、やはり神を鎮めるのは難しいかもしれません」
先生はそう言って額の汗をぬぐうふりをした。「まるで対話というものが成立しませんでした。一方的にまくしたてられた始末で……」
「なんと、めりくり様はまだお怒りであらせられると」
「ええ、おまけに最後の一人――両脚を失って死ぬのは誰か、すでに決めておいでです」
先生の言葉に、部屋中がどよめいた。
おいおい先生、そんなことまで言っちゃって大丈夫なのか? おれはいよいよ心配になってきた。誇張でなく、胃がキリキリと痛み始めた。
「だ、誰なんだ! 次に死ぬのは!?」
好太郎さんが青い顔をして叫んだ。先生はスッと移動し、右手を挙げてポンと肩を叩いた。
「君だそうだ」
「ほえ?」
先生に肩を叩かれたのは、おれだったのだ。
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