2023/12/19

「あああ、えええええ!?」

 気が付くとおれはマヌケな声で叫んでいた。

 なんだ? 何言ってんだこの人は。めりくり様の祟りとかあるわけないだろうに。だから次の犠牲者とかもいるはずがなく、いや実際に被害者は出てるのだが、にしてもだよ? え? どうすんのこれ?

 どうすんの……。

 いつの間にか、部屋中の視線がまたおれに集まっている。まずい、胃が痛くなってきた……。

「残念だよ、柳くん……」

 先生が沈痛な面持ちで言った。いや何が残念なんだよ。何言ってんの? 誰かこの状況にツッコんでくれ……と部屋中を見回したが、

「なんということじゃ、怖ろしや……」

 織江さんはめりくり様の祟りをハナから信じているので、ガタガタ震えながら両手をすり合わせ、好太郎さんは

「あっ、オレじゃなかった? よかった~」

 と言いながら胸を撫で下ろし、通子さんは

「まぁ……なんということでしょう……」

 と、これもまためりくり様を信じている派なので織江さんとどっこいどっこい。田中さんは泥酔しているし、メイドさんたちは銘々ショットグラスを傾けながら、

「うちら大奥様に逆らえないんで……」

「マジこわ」

「おつかれっした」

 などと真顔で呟いている。なんてこった。どこにもおれの味方がいない。

「まぁ諦めるにはまだ早いよ柳くん。どんなピンチであっても、君にあがき続ける意志がある限り絶対駄目などということはないのだから。ハイこれ」

 クソ適当なことを言いながら、先生はおれに掌に載るくらいの小袋を渡してきた。見覚えがある袋だ……。

「お守り。あげるから」

「これ先生がネット通販で普通に売ってるやつですよね?」

「まぁまぁ」

 先生はグッと顔を近づけてくると、「いいから黙って持っとけ」とドスの利いた小声でおれを脅した。

「ハ、ハイ」

 なんか本当に怖くなってきた。何が起こるのか全然わからん。何だこれ。先生、真犯人に心あたりがあるようなこと言ってたな。とはいえ、こんな宣言に何の意味があるんだ? おれなんか、この家の遺産問題に一番関係ない人間だと思うんだが。マジでなんだこれ……とりあえずジャケットの内ポケットにお守りを入れておくことにした。

「……じゃ、飲み直しましょうか!」

 先生は急に明るい声でそう言うと、困惑の極みでプルプル震えるおれを後目にその辺にあったシャンパンを手際よく開け、チャッチャと全員に配り始めた。なんだその手際のよさ。何でだよ。なんで飲み直すんだよ。

「まぁまぁ、今のうちに高い酒飲んどけよ」

 そう言いながら、先生はおれにもグラスを押し付ける。

「今のうちって何すかぁ!?」

「はいカンパーイ!!」

 こうしてなんだかよくわからんうちに酒宴が再会した。

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