2023/12/14
「実は僕は、この家の当主・天婦礼
マスクをとった田中さんは、そう話し始めた。ちなみに、本当に田中さんという名字らしい。
「まぁ、お父様の……一人か二人はいると思ってましたわ」
「むしろ今まで出てこなかったのが不思議なくらいじゃ」
それ相応の言われようだ。
「しかしまぁ、息子の若い頃に瓜二つじゃの〜」
「はぁ、どうも……」
田中さんはそう言って頭を下げた。「そんなには嬉しくないです」
「そうじゃろうとも。しかしあんた、どうしてこの家に来たのかえ?」
織江さんが尋ねると、田中さんはさほど抵抗もなく「実は……」と切り出した。言葉はしっかりしているが、顔の赤さや表情からすると相当酔っているようだ。
「実はすぎぴよ――いえ、杉二郎さんとはネットを通じて知り合ったオタ友だったんです。最初は苦労している僕や母を差し置いて、お屋敷でのうのうと暮らしている男がどんな奴か知りたくてわざと相互フォロワーになったんですが……まぁ相応にアレな奴だったんですが、それでもネット越しでマイルドになると言うか、話せないほどではなかったので、ほどほどに付き合っていたんです」
先生が「うんうん」とうなずきながら田中さんのグラスにウイスキーを注ぐ。禅士院雨息斎という男、霊能力はないがコミュ力は高いし酒にも強い。田中さんが何かしら情報を持っていると踏んで近づき、なんだかんだ言いながら酔わせてあれこれ聞き出したらしい。怖い。
「ところが、毎日多い時は百件近くつぶやいていたすぎぴよの投稿が急に止まって……これは天婦礼家に何かあったのではないかと胸騒ぎがしました。そこで様子を見に来たのですが、自分の顔が父の若い頃にそっくりなことを思い出しまして。騒ぎになったらまずいと思い、たまたま持っていたマスクをかぶって顔を隠したんです」
なんでたまたま持ってたんだよ。
「そんなことがあっただなんて……」
通子さんはハンカチで目元を押さえて声を震わせた。今の話のどこに泣く要素があったというのか……。
「では、田中さんは私のお兄様でいらっしゃるのね」
通子さんの言葉に、おれははっとした。じゃあ、田中さんにも相続権はあるってことじゃないのか? 当主の天婦礼盛夫氏の遺産がどういうことになってるのか部外者のおれにはさっぱりだが、もしも財産目当ての殺人だとしたら、彼の登場によって状況が大きく動くのではないか。
「いやぁ、大変でしたね~ホントね~。ところで田中さん、盛夫さんはあなたの認知は……?」
先生、いきなり聞きたいところのド真ん中にいくな。
田中さんはふらふらしながら「あっ、それはもう、母が必死に説得してやらせたと……」と答えた。じゃあやっぱり相続に絡んでくるのか……? まずいな、被害者候補が増えてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます