2023/12/24
おれ、小さい頃から臆病で引っ込み思案で完全に陰キャだったけど、体動かすのは得意で体育だけはできたんだっけ。だから運動会だの体育祭だのってイベントのときだけはチヤホヤされて、でもそれってほんのひとときだけで、思い切って運動部に入ってみたりしたけど、いざ大会ってなるとびびっちゃって駄目だったな。全然結果が出せなくって皆にがっかりされて、初めてできた彼女にもそれでふられたりしてさ、でもまぁまぁ部内では仲良くやれてるじゃん? とか思ってても、おれ以外の部員で遊びに行ったりしてたのをたまたま知っちゃったりして。そんなんなのに、何でアクション俳優なんか目指してたんだっけなぁ。確かに特撮とか好きだったけど。誰かに褒められたんだっけ? 我ながら単純だよな。こんな浅はかな理由で俳優なんかになれるかよって今なら思うんだけど、まぁ、案の定挫折するよな。でもそこまではなんていうか、自分で選んだ人生なんだよ。そっからなんだよな。なあぁんで今、こんなことになっちゃってるんだろ――
という思考がエンドロールみたいに頭の中で流れ、あっこれ走馬灯ってやつ? と思ったときにはもう、通子さんは上半身を庇に乗せかけていた。
もうダメだ、と心の底から思った瞬間、おれのすぐ真上にある窓がバンと音をたてて開いた。
「よう柳!」
先生の声がした。
見上げたおれの視界を、何か細長いものが二本飛んでいった。
なんだありゃ?
「あああああ!! 何をなさいますのおぉ!!?」
通子さんが大声をあげた。庇からぱっと手を離し、下へと消えた。ボスッという着地音が続く。後には庇に食い込んだ斧が残された。
「せ、先生ー!」
泣きそうになった。正直感動した。先生は窓の外を見ると「たっか!」と叫び、どこかに走り出していく。
とにかく助かった……走馬灯はろくなもんじゃなかったが、それでも死ぬのは嫌だ。
庇からそっと下を見下ろした。通子さんは何かを拾い集めている――よく見ると人間の腕だ。背筋がざわざわっと冷たくなった。
「ひどいわ、めりくり様にお渡ししなければならないものなのに」
などと嘆いているのが聞こえる――ええい狂信者に構っていられるか! おれは開いた窓から屋敷の中に入った。使われていない客間らしく、暖房は入っていないが、室内に入っただけで暖かく感じられた。
おれは先生を追いかけるつもりで廊下に出た。もちろんもう姿はない。でも、外に出たんだろうと思った。
先生なら、通子さんを無力化しようとするはずだ。どうやってか知らんが……。
「ぎゃっ!」
窓の外から悲鳴が聞こえた。先生じゃない。たぶん……いや、ちょっとわかんないけど……。
ともかくおれは階段を下りた。途中で番頭さんとすれ違い、「おみ足がビショビショでございます!」と非難めいた声で呼び止めようとするのを、「スイマセン!!」とでかい声で押し切った。階段を下り、靴下のまま近くにあった窓から外に飛び出した。悲鳴が聞こえたのはどこだ? と辺りを見渡すと、人影が目に入った。先生だ。
息を切らして立ち上がった足元には、通子さんが倒れている。
「先生……まさか……」
おそるおそる近づくと、先生がふーっとため息をつくのが聞こえた。
「なんとか絞め落とせた……」
「絞め!?」
「バカ柳、でかい声で言うな! 憑き物が去って気を失ったってことにするからな。話合わせろよ」
「は、はぁ……」
禅士院雨息斎、霊能力はないが、格闘の心得はあるのだ……とにかく助かってよかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます