2023/12/25
「いや~、無事に帰れてよかったな柳」
「急に解決した感出さないでくださいよ!」
まぁ、一応解決はしたのだ。あの後通子さんを拘束して空き部屋に閉じ込め、警察も翌朝なんとかヘリを飛ばしてきてくれた。めりくり様の三人目の生贄は出なかったわけで、だから一応ハッピーエンドというか、霊能力者・禅士院雨息斎の面目は立ったということになる。
だが、例によって説明されていないことがある。
「せめておれには正直なとこ教えてくださいよ。モヤモヤするじゃないすか……なんすかあの託宣とか」
橋の崩落と警察の取り調べのために、しばらく帰京できなくなったおれたちは、しかたなく屋敷で暇をつぶしていた。こんなことをやっている間にも、東京では仕事が待っている。先生は持ってきたノートパソコンであれこれやっているが、あまりにも電波状況が悪いのでおそろしく不機嫌になっていることがあり、よろしくない。なんやかんやバタバタし、ようやく二人きりになって事情を聞けたときには日数が経って、もう世間はクリスマスになっていた。
「そもそも先生、最初の方から通子さんにはり付けって言ってたじゃないすか。なんか確信があったんでしょ?」
「いや、ここテンプレっぽい村だから、『露骨に犯人らしくない美女』が犯人なんじゃないかと思って」
「それだけっすかぁ!?」
「あと霊能力でピンときた」
「それは絶対に嘘」
「ハイ嘘。あのな、織江さんが来たあと、『この件から手を引け』って脅迫電話があっただろ」
「ああ、ハイ」
そういえばあったな。すっかり忘れてた。
「もちろん非通知だったわけだが、あんな電話かけてくるってことは織江さんのスケジュールをある程度把握してるってことだろ。だから家庭内の人物に目星をつけたんだが」
そこまではまぁ、わかる。で、どうして通子さんに絞ったんだ?
「まぁ最初は媚売っといたら美味しいかなと思っただけなんだが……屋敷の中を案内してもらっただろ? あのときに目星がついた。あの脅迫電話、かなり狭い部屋からかかってきてたんだ」
「は? 電話で部屋の広さなんてわかるんですか?」
「音の反響でなんとなく見当つくだろ」
つかないよ。先生、やっぱり異様に耳がいいんだよな……。
「固定電話があって狭い場所といえば、この家の中なら通子さんの部屋だ。使用人の伴さんのよりも狭かったからな。クソ兄貴とクソ親父を殺すだけの動機もありそうだったし……」
どうやら先生も、怨恨や相続が殺人の動機だと思っていたらしい。まぁ、それが普通だよな。
「だから、好太郎さんか田中さんが三人目だろうと思ってたんだよ。じゃあ変な託宣したらどう出るかな〜と」
「マジモンの狂信者だったじゃないすか……ホント死ななくてよかった……」
おれが通子さんに追い詰められていたときも、先生は物音で場所を捕捉したようだ。彼女の部屋からは他に血のついた服や予備の斧などが発見され、今は杉二郎氏の首を探している最中だという。
通子さんは相変わらず倫理観の欠けためりくり様推しを続けているそうだが、先生の指示で「その後橋の工事中に事故があって、作業員の一人が両足を失った」という嘘を吹き込んだところ、「ではこれで一段落ですわね! よかったわ〜」とニコニコしていたらしいから、当面危険ではなさそうだ。たぶん。
「一番の権力者の織江さんが、孫娘にめりくり様が憑いたとかなんとか主張してるおかげで、俺が何にもしなくても『禅士院雨息斎が何とかした』体になりそうで助かるよ。通子さんは根っから狂信者だから、ほっといてもいいだろ」
「いや、よくはないと思いますが……」
ともかく、これでめりくり様連続殺人事件は幕を閉じたというわけだ。
当主を失った天婦礼家は長男の好太郎さんが継ぐことになるようだ。が、田中さん(もちろんもうマスクは被っていない)もこの村に留まるらしい。あの宴会を経て、なぜか意気投合したとかいう話だ。
「ホラーのテンプレなら、この辺で『犯人が逃亡した』って連絡が入ったりしてな」
「やめてくださいよ……」
そう言った次の瞬間、部屋の内線電話が鳴りだした。おれと先生は思わず顔を見合わせた。
「タイミングよすぎ」
「うわ……まさか」
「いや、さすがにまさかすぎるだろ」
先生が笑いながら電話に出た。「ああ、伴さんですか。ええ……えっ、本当ですか!?」
先生の顔からふざけた笑みが一気に消えた。「はい……わかりました。柳にも伝えます……ご連絡ありがとうございます……」
カチャン、と受話器を置くと、先生はゆっくりとこちらを振り返った。
握りしめた手のひらに変な汗が滲んできた。まさか……
「――柳、仮設の橋かける作業終わったから、もう村から出ていいって」
「よかったーーー!!!」
〈禅士院雨息斎のブラッディフォークロア劇場・了〉
【アドベントカレンダー】禅士院雨息斎のブラッディフォークロア劇場 尾八原ジュージ @zi-yon
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