side湖宮さん「またやっちゃった…」
ガタタン、と電車に揺られている。
(どうして私は仁科くんの前だと浮かれちゃうんだろう。自分が自分じゃないみたい)
湖宮さんは深い自己嫌悪に陥っていた。
(彼といると楽しくて、イヤなことを全部忘れられて、息がしやすい。だからついハメを外しちゃって……)
駅まで送ってくれたときに何度も何度も謝って、彼は「気にしてない。へーきへーき」と笑ってくれたけど、内心は怒っているのではないか。
(首痛がってたもん。私がヘンな格好でいたせいで、迷惑かけて)
あの時、じつは鏡に映る自分を見ていたのだ。
父が亡くなってたからというもの、俯いて地面とにらめっこばかりしていた自分の顔を久しぶりに見たような気がした。
カラオケ映像で目にした「音々」はとても細くて愛らしい。
それに比べて自分は二の腕やお腹についたお肉が邪魔だ。胸は小さくはないと思うけれど、もうちょっと大きくしたい。
仁科くんはどんな服装が好きだろう、自分に似合う色はなんだろう、メイクやスタイリングを勉強してもっと綺麗になりたい。そんなことを考えていた。
(私、ふつうに声だせるんだ。歌うことしかできないと思っていたのに)
自分でもびっくりした。
暗闇の中で震えていたら彼の声がして、嬉しいのと同時に、自分の体を見られるのがとても恥ずかしくなった。だから無我夢中で……。
(仁科くん、いまなにしてるんだろう)
天井を仰ぐ。
恥ずかしいことも不安なことも楽しいことも嬉しいことも、ぜんぶ彼が教えてくれた。いままで自分の中になかった感情だ。
(仁科くんはスキを知っているのかな。私にもいつか分かるのかな)
これも恋する気持ち……かなぁ?
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