恋を知らない推しとラブソングを作ることになった件

せりざわ。

第1話 プロローグ

「まったく姉ちゃんは人使いが荒いよなぁ、ネギに白菜に米5キロ! 成長期の高校生に買い物させる量じゃないよ。湖宮こみやさんもそう思わないか?」


 軽口を叩きながら隣を見ると、制服姿の美少女が目線を向けてきた。


 腰まで届くロングストレートの綺麗な髪が風になびき、夕焼け空の下で聖女のように輝いている。


「ん」


 柔らかそうな唇を引き上げて、こくん、と小さくうなずく。


 湖宮 のぞみさん。

 今年の春、同じクラスになって、席も近かったけど、夏休み明けのつい最近まで一度も関わったことのない同級生。


 円らな瞳、長い睫毛、形のよい鼻筋。

 「美少女」の言葉が霞んでしまうくらいの美貌で入学当初は随分と話題になっていたっけ。


 容姿端麗、パーフェクトガール、2.5次元のアニメキャラ、高嶺の花……etc。

 いずれにしても俺には関係ない世界の住人と思っていたのに、どうしてこうなった。


「……なぁさっきの話、本気?」


 なにが?と問いかけるように小首を傾げる。肩からすべり落ちる髪は艶やかな糸みたいだ。二重瞼の大きな瞳に吸い込まれそうになる。


「だ、だから」


 我を忘れそうになり、こほん、と咳払いしてから本題に切り込んだ。


「俺たち同級生だけど、まともに接触したのは昨日が初めてだったよな。そんな浅い関係なのに、これからウチに来たいってほんの冗談ジョーク……だよな?」


「……」


 答えのかわりに腕を伸ばしてきた。重たいレジ袋の片方をぎゅっと握って歩幅を合わせてくれる。

 まるで同棲カップルが買い物を終えて愛の巣に帰るようだ。


 ふいに目が合うとにこりと微笑んだ。



(やべぇ湖宮さん本気だ。本気で家に来る気だ。どどどどうしよう……)



 俗に、人生にはモテ期が三回あると言う。

 俺、仁科陽人にしなはると。高校一年。二回目がきたかもしれない。




 ――はじまりは、そう、二日前のことだ。

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