結成!少年探偵団

「少年探偵団…!?」


元就と琥珀が素っ頓狂な声を出して、漫才師のようにユニゾンツッコミするのを見て、うれしそうな顔をするのは天音だった。


「だって、ふたりとも給食費の事件のとき、かっこよかったじゃん。組んでみれば?」


「いや、単にクラスをかき回して混乱させてただけだと思うけど。謙遜でもなんでもなくあれは醜態を見せただけで」


元就は冷静に自己分析できていた。


「だけど、少なくとも私はふたりに救われたんだけどな。誰も味方がいない中で、ふたりは私にとってヒーローとヒロインだよ」


「ヒーローとヒロインか……」


と琥珀は女の子ぶって考え込みながら言った。


「そう言われてみれば、私たち、ちょっとだけ探偵っぽいことをしてたかもね」


元就は苦笑いを浮かべながら、「まあ、探偵団というほど大袈裟じゃないけどね」と答えた。


「そうそう、そういうの!」と天音は目を輝かせた。


「ふたりがいれば、何かあっても安心だよ。私も力になりたいな」


「じゃあ、少年探偵団ごっこでもする?」とごっこ遊びを元就が提案する。


少年探偵団。


江戸川乱歩が書いた小説、怪人二十面相シリーズやその派生作品に登場する少年少女だけの探偵団だ。


長期シリーズであったが、怪人が予告状を出し、それによって集まった内部関係者に変装して、こっそりとお宝を盗み出すというトリックが様式美になっていた。


中心人物の小林少年による女装が名物とされていたことから、今の自分にある意味ぴったりではないかと琥珀は自嘲した。


「じゃあ、何を探す?ポスターに張り出されている行方不明になった猫でも探す?」と琥珀。


現実の探偵の仕事の大半は浮気調査や身元調査のようなものだ。


万物検索演神とは相性が良さそうだったが、子どもがごっこ遊びでやるのにはふさわしくなかった。


「えー、殺人事件がいい。大きな洋館に10人のメンバーが集まってひとりずつ殺されていくの」


「あはは、ミステリーもののみすぎだよ」


天音の突拍子もない発言に琥珀は突っ込む。


そうだ。


これはごっこ遊びなのだ。


犯人役と探偵役、被害者役などにみんながなりきっておままごとをするだけなのだ。


「それじゃ、私が犯人役をやるよ!」と天音はわくわくしながら言った。


「じゃあ、僕が探偵役かな?」と元就が提案し、琥珀は被害者役を引き受けることにした。


大きな洋館を妄想して、犯人役の天音に対し、被害者役の琥珀が憎まれ台詞を吐く。


「わははは。10年前にお前の父さんをころしたのはわたしなのだー」


いかにもな設定を琥珀は、即興で演じる。


「ゆ、許せない」と応じる犯人役の天音。


そんなふたりを横目に、元就は、一人の怪しい中年の男が、小学校のグラウンドを覗き込んでいるのを見ていた。


「心を読む?」と素早くパンダが横に現れたので元就はうなづく。


『ああ、人生がなにもかもうまくいかない、大量殺人しようかなあ。刃物も爆弾物も薬品も取り揃えてるんだ』

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