焼失した父への手紙
「じゃあ、パパには長く会ってないの?」
琥珀は、他人の家庭の事情に深入りしてはいけないと思う気持ちはあったが、重大なカミングアウトをしたのにそれをスルーするのは非礼だとも感じた。
天音は首を横に振った。
「会ってない。お手紙書いたけど返事来ない」
重たい空気が漂う。
「どれくらい?」
「えっと……?たぶん、3か月」
3か月。
もし、手紙が届いていて、返事をする気があるならば、とっくの昔に返事を返しているであろう期間だった。
「何て書いたの?」
「将来、漫画家になりたいことと、あと、東京に行って、ママに言って、横浜のランドマークタワーに遊びに行ったことかな?」
「そっか……」
再び、沈黙が支配する。
「ねえ。やっぱり、パパから返事来てほしいよね」
そう言うと、天音は三角座りになり顔を膝に押しつける。
「来てほしい」
涙声だった。
女の子を泣かせてしまった。
琥珀は後悔したが、なんて声をかければ正解だったのかもわからなかった。
家に帰った琥珀は、薄暗くなった家に電気をつけるわけでもなく、ウサモフに話しかけた。
「ねえ。ウサモフ、万物検索演神を使える?」
うさぎはひょこっと現れた。
「手紙を彼女のパパに届けるだなんて馬鹿なことは考えてないよね?」
「検索ワードは、山本天音、漫画、横浜ランドマークタワービル」
ウサモフの静止を聞かずに、琥珀は叫んだ。
「何を考えてるんだ」
「天音ちゃんがかわいそうでしょ!ひくっ!」
琥珀は、涙があふれて止まらなかった。
彼女の涙腺の緩さも小学生そのものに退行していた。
「泣けばいいと思ってる。仕方ないなあ。検索するよ」
ウサモフは祈り、鏡に結果が表示された。
そこには、少女の手紙の内容が映し出されていた。
パパが大好きなこと会いたいこと。
将来、漫画家になりたいこと。
横浜ランドマークタワービルに遊びに行ったこと。
少女の内情が、克明に手紙は書かれていた。
天音が言った内容そのものだった。
「この手紙は今……」
「〇×市焼却処理場で焼失と書いてあるね」
ウサギは残酷な現実を告げた。
焼失。
だれがごみとして捨てたのか。
父親か。
もし、父親に愛がなければ捨てるかもしれない。
母親か。
母親であれば、子どもの心が自分から離れることに嫉妬して捨てるようなことはあるかもしれない。
どちらの可能性もあったが、琥珀は、父親が燃やしたのではないと信じたかった。
「手紙の内容、清書するよ」
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