万物検索エンジン
万物検索演神の生まれは、天竺から密教が伝来し、神秘主義と仏教が結びついた時代にさかのぼる。
この時代、ある隠れた山間にある密教寺院で、高度な修行を積んだ僧侶たちが、古今東西、あらゆる時代に活字として起こされた知識を検索できる神秘的な装置「知識の鏡」を作り出した。
この寺院は、仏教の教えと古代の神秘学を融合させた独自の修行法を持っており、その中で生まれたのが、知識の鏡だ。
知識の鏡は、特別な金属と鉱石、そして密教の呪文を用いて作られた。装置の中心部には、大きな円盤があり、その上には無数の小さな鏡が配置されてた。これを多層鏡板マルチディスプレイと呼ばれた。これらの鏡は、全ての書物に記された文字を反映し、あらゆる問いに対する答えを映し出すことができるとされている。
僧侶たちは、装置を使用する際、深い瞑想状態に入り、心の中で問いかけた。すると、知識の鏡はその問いに関連する活字を全ての書物から探し出し、答えを鏡に映しだした。
技術は、当時の僧侶たちにとって、経典の解釈や教義の研究において非常に重要なものだった。
その強大な力は、その知識の濫用を恐れた寺院の長老たちによって秘密にされ、外部には決して公開されなかった。
そして、時が経つにつれ、知識の鏡は失われ、その存在は伝説としてのみ語り継がれることとなった。
「うん。ウサモフ?歴史はわかったから、とにかく、使い方教えて?僕たちさ、緊急事態ですごく困ってるんだ」
「僕が鏡に瞑想した状態で語りかけると、この多層鏡板に答えが映し出される」
「なるほど、じゃあ、質問するね?古都大学の文学部考古学科の学舎で殺人事件が起きたので犯人についての情報を検索して」
「たぶん、情報なさそうに思うなあ」
「やってみないと分からないじゃないか」
宇佐門府は、座禅を組み瞑想に入った。
手元にある鏡に向かって検索ワードをぶつぶつとつぶやき最後に「知識の鏡よ。我に叡智を授けたまへ」とかわいらしい前足で祈った。
鏡に検索結果が映し出された。
出てきたのはこの学科の学生による卒業論文だった。
ミステリー小説が好きな卒業生が名探偵ポアロの「オリエント急行殺人事件」やシャーロックホームズの「緋色の研究」などミステリーの世界では古典と呼ばれる小説の歴史についてまとめたものだった。
「こんなもの、たぶん、普通のインターネット検索でも見れるか無理でも学内図書館のデータベースで見れるよ。殺人事件の情報とかないの?」
「無理だよ。今日起きたばかりで、まだ新聞記者もこの事件を知らないし、誰も活字にしていない。未来の新聞記事まで検索できる予知能力まではないんだ」
「なるほど、すでにこの世に活字にされた情報だけで検索をすると、うーん犯人探しに役に立ちそうにないなあ。ん?」
助手が、ふと見ると、学生証が落ちていた。
竹野明彦。
そうか。被害者の名前がわかっているのであれば彼が何か犯人捜しのヒントになるものを書き残したものを探せるかもしれない。
「あと4回」
宇佐門府は忠告した。
「今日、検索演神を使えるのはあと4回だよ」
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