火の路
助手は迷った。
1日に5回。
なんどでも検索できるのならば片っ端から可能性をつぶしていけば良い。
エジソンの名言に失敗は成功のもとという言葉があるが、可能性を一つずつピックアップしていき、つぶしていけば、最後に残ったものが答えにできるだろう。
だが、検索回数制限があると、また、警察がたどり着くまでに時間制限があるとなると話が違う。
第六感のようなもの、あるいは今の助手は女の子の体になったのだから女の勘のようなものを働かせて、正解にあたりをつけなければならない。
外れたら、犯人からは遠ざかる。
助手も教授も警察から容疑者候補として目を付けられることになるだろう。
何を検索すべきか。
電話番号がないと登録できないタイプのSNSのアカウント?
そこにはきっとプライベートなやりとりの数々が残されているだろう。
犯行予告のようなものまで書かれているかもしれない。
だが、そんなものを都合よく特定する検索ワードはあるのか。
もし、ダイレクトに犯人に近づけないのだとすれば、間接的にヒントを得られるものはないか。
動機に近づけるとしたら……。
「竹野くん。かわいそうになあ。この前は、卒業論文のデータがクラウド上から消えたって大騒ぎしてたし踏んだり蹴ったりだなあ。だから、バックアップ取れってあれほど言ってたのに」
被害者を見下ろしながら、修士が、ぽつりとつぶやいた。
卒業論文が消えた。
これが本人のミスじゃなくて悪意ある第三者によるものだったら。
可能性ではあるが、犯人の動機に近づけるかもしれない。
「ウサモフ。古都大学、竹野明彦、卒業論文の3つの検索ワードで調べてくれ」
「それでいいの?」
「いいよ」
直接、卒業論文の内容にたどりつくことができるか、そうでなくても、卒業論文について言及したSNSのやりとりにたどり着けるかもしれない。
助手には、どちらにもヒントがありそうに見えた。
ウサモフは、鼻をもふがふがせながら、前足を天に掲げ、鏡に祈った。
「結果出たよ」
「何が出た?」
「卒業論文の本文」
「そっちか」
助手は、どちらかというとSNSのデータを期待していたが、消えた卒業論文の内容からもヒントを得られるかもしれないと考え直した。
「どれどれ」
助手は鏡を覗き込んだ。
「これは……」
建築技術についてまとめられた論文である。
平安時代に中国は宋の時代に日本へ伝来したとされるとある寺院の建築技法。
これが飛鳥時代にパフラヴィー朝波斯ペルシャからゾロアスター教の僧侶によって伝来したという説である。
「これが、本当に裏付けがあるなら新発見だ……学生の卒業論文していいような代物じゃない」
この論文が悪意ある第三者により、消されていたのだとしたら、動機と犯人候補はおのずと見えてくるのであった。
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