Linuxコマンドログ

「ちょっと待って、この論文の検索結果に出ているこの文字列は何?ファイル名?『卒業論文_古代ペルシャからの伝来の技術について_竹野明彦_20xx1131.doc』」


アンダーバーで区切られ、鏡に映っているデータには明らかに特定のアプリケーションで開くことを示す拡張子がついていた。


ファイル名とみて間違いない。


「ウサモフ。このファイル名で検索したら何かでないかな」


「オーケー。君、なかなか鋭いね。ウサモフモフモフ。検索結果出ろー」


「……なんだ、お祈りの言葉。結構、適当でいいのね」


「検索結果たくさん出たよ。だけど、どれか一つしか見れないよ」


「学内SNSと思しきやりとり、クラウド管理会社のアクセスログ、論文本体はさっき見た」


助手は悩んだ。


どちらだ。


どちらも重要な情報に見えた。


「…ログ」


「ん?」


「アクセスログにする!」


助手はログに賭けた。


Linuxのコマンドと誰が実行者であるかについての情報が書かれている。


おそらく本当はGUIで操作したものをコマンドで動かす仕組みになっているのだろう。


「Ctr+Fのようなものはないの?これ全部読むの大変だから、ファイル名で検索して」


「頑張ってみる」


sudo rm -f 卒業論文_古代ペルシャからの伝来の技術について_竹野明彦_20xx1131.doc #user sakai akiko


「これは…」


sakai akikoというユーザーがファイルを削除した痕跡だった。


sudoを使っているということは管理者といってもいいユーザーであることを示していた。


酒井明子。


それは目の前で生徒を介抱して警察を待っているその講師の名前だった。


助手は教授に話しかけることにした。


「教授、酒井先生が疑わしくないですか?」


「生徒を失って泣いている人に向かってなんてことを言うんだ。失礼だろ。そこまで言うなら証拠はあるのか?」


「うっ……」


万物検索演神はあくまで亡霊が助手に見せているものにすぎない。


教授やましてや警察に提出できるものではない。


彼女を告発するのであれば、もっと、明確な物的証拠が必要になるだろう。


「どうすれば……」


救急車のサイレンが鳴り響いた。


もうすぐここに到着することを示していた。

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