薬物購入履歴

もし、彼の死因が劇物による中毒死だったとする。


その劇物はどこで入手したのか。


古都大学には薬学部はない。


となれば、個人購入と考えるのが適当だろう。


インターネット販売?


だとするならば、買い物の記録が残っているはずだ。


「ウサモフ。買い物履歴も検索できるのか?」


「できるけど、インターネットの買い物なんて膨大な量だから全部は見ることできないモフよ。どこのサービスのなんて製品かってある程度絞らなきゃ」


なるほど、厄介である。


「毒物の名前はわかるの?」


「わかるわけがない」


牛野助手は、毒物に関して素人である。


いや、仮に玄人だったとしても、青くなった顔の色だけで毒物の種類を当てるなんて芸当はできそうにもなかった。


毒物を購入するときに、劇物を購入するときに必ず記載されている文字列。


それと酒井の名前を組み合わせたら、きっと買い物記録にたどり着くはずだ。


そんな文字列はあるのか?


「教授、毒物購入したことあります?」


「何を藪から棒に。あるわけないだろ。俺を疑っているのか?」


「いやまあ、なんか知識あるかなと」


「冗談を言うな。仮に興味があって購入したとしてもあれは、管理や販売するために資格がいるんだ。なんて名前の資格だったかな…薬物管理者みたいな名前の」


「それだ!」


牛野はウサギではなくスマートフォンで検索をはじめた。


そして、その検索すべきワードにたどり着いた。


「ウサモフ、次の検索ワードは、2つだ。酒井明子、毒物劇物取扱者。この2つの検索結果を頼む」


ウサモフは祈った。


助手も祈った。


そして、検索結果は出た。


書かれていたのは酒井の住所と名前、そして、劇物の名前、販売した取扱者や企業の名前、値段などなどである。


世間一般で注文履歴、注文詳細などという類のものである。


おそらくメールアドレス宛にに送られてきたものだろう。


「これ、プリントアウトできないの?無理でも最悪写メか手書きで手元に残すけど」


「亡霊の道具だから写メは無理だねえ」


「手書きか……」


手書きを警察に渡すとしたら筆跡が残ることになるだろう。


そうなると、自分が何者であるか、どのようにしてこの情報を手に入れたのかを説明しなくてはいけなくなる。


事件は解決するだろうが助手自身に来るダメージも大きいだろう。


「ちょっとその演神。研究室にまで持ってこれない?」


「え?どうするの?」


「パソコンで清書するに決まってるでしょ」


「さっきから、何を独りごとをぶつぶつ言っているのかね?」


教授は少女に対して怪訝な顔で見つめた。


「ふえ……」


泣き顔を作る。


「ど、どうした」


「私、おしっこ行きたい」


「女子トイレはあっちだ」


「わかったー」


助手は指さされた方向とは真逆の研究室に一目散に走っていった。

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