転校生元OL少年

「さて、皆さんに新しいお友達、転校生がやってきました」


「またかよー。この前、来たばかりじゃないか」


子どもは時として容赦なく失礼なヤジを飛ばす。


「ねえねえ、先生。今度も女の子?」


「男の子です。入ってきてー」


手招きを受けて、少年は部屋に入ってきた。


「島野元就って言います。よろしくお願いします」


ぺこりと頭を下げる。


島野亜寿沙は、偽名をつけるにあたって、智謀で名高い戦国大名の名前を選んだ。


可能であれば、諸葛亮にしたかったのだが、日本人のように見えなかったのであきらめたのだった。


クラスの子どもたちは、元就の登場に様々な反応を示した。


「イケメンじゃん。かっこいいね」


「生意気そうな顔してるなー」


男は敷居を跨げば七人の敵ありということわざがある。


島野少年は、男としての山あり谷ありの人生を歩みだしたことに感慨深く感じていた。


「島野元就くん。じゃあ、あの席に座ってください。あの女の子の隣」


もじもじとしている女の子を先生が指さしたのでその隣までゆったりと歩む。


ざっと見渡した感じ、スラックスを履いているのはこのクラスでもこの子とあと2名くらいか。


亜寿沙もスカートを履くのは恥ずかしいタイプだったので女の子の気持ちはわからなくはなかった。


「よろしく。名前はなんていうの?」


元就は、自分なりにイケボを作って女の子に話しかけて手を差し伸べた。


「琥珀、虎尾琥珀って言います」


遠慮がちに手を差し伸べたので握手すると、女の子はびくっと小動物のような反応をした。


「なにか、怖がらせるようなことしてるかな?」


「え、え、いいえ。なんでもないです」


そこにひょこっとパンダの亡霊が現れた。


「ねえねえ。ちょこっとこの女の子の心を読んでみないかい?面白そうだよ」


パンダは他人の心を読む能力があるという。


しかし、元就は無視した。


小さなレディーの心を読むなんて非礼だと思ったのだ。


パンダの亡霊は少し驚いたように元就を見た。


「おお、なかなか優しいじゃないか。でも、この力を使ってみると色々と便利だぞ」


元就は静かに首を横に振った。


「僕は自分の力で人との関係を築きたいんだ。他人の心を読むのは、ちょっと違う」


「かっこつけちゃって、ふん」


パンダはそっぽを向いた。


だが、元就が前言撤回するまでに時間はかからなかった。


「給食費が!僕の給食費がない!」


事件は起きた。


北村道三くんの給食費がなくなっていた。


先生は、子どもたちの動揺を抑えようと犯人捜しはしなかったが、子どもたちの間で疑心暗鬼は広がっていった。


「お前が取ったんだろ。お前んち貧乏じゃん!」


一人の女の子が、そう言って指さされていた。

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