泣く元男性と庇う元女性

「天音ちゃんはそんなことしないよ!ひどいよ!」


そう言って最初にかばったのは、隣の席の女の子、確か名前は琥珀ちゃんだった。


「黙れたぬき女!証拠あるのかよ!」


たぬき、確かにそう見えなくもない愛嬌のある顔をしていたが、女の子にひどいことを言うなと元就は思った。


「証拠がないことを証明するのはできないよ!そういうのを悪魔の照明っていうんだから」


まるで大人みたいな理屈をこねるなと元就は思ったが、言ってることは確かに正しかった。


「たぬきと貧乏女が言い訳してる」


「ひどいよ。天音ちゃんは悪くないのに。ヒック……」


「琥珀〜。ブスだからって泣くなよ〜」


その頃、琥珀は内面で葛藤していた。


(くそ。俺の正体は大人の男なんだ。こんな子供レベルのくだらない意地悪に泣くなんて情けないことできるわけが)


しかし、少女は大人だった頃のように自分の感情を的確に処理できなかった。


「ふえ……」


「なーかしやったなかしやったいーけないんだーいけないんだー」


「びえええ。くやしいいい」


「女子は泣けばいいと思ってるんだから。これに懲りたら泥棒すんなよ」


元就は、子どもの会話のスピードに追い付けず、しばらくあたふたしていたが、口をはさむことにした。


「ちょっと待って!証拠もないのに泥棒呼ばわりはひどいと思うよ僕も」


「なんだと?転校生が調子に乗りやがって」


悪ガキは、元就につかみかかろうとしたが、ひらりと身をかわす。


もう一度、つかみかかろうとしたので、ひらりと後ろ手にひねる。


「いててててて」


亜寿沙は合気道の心得があった。


女だった頃、男に負けたくなくて身に着けたものだ。


このような暴力は使いたくなかったが、やむをえなかった。


「僕たちは同じクラスの仲間だろう?こんな風に争って、何か解決するんだ?」


と元就が言うと「そうよそうよ」と何人かの女子が同調した。


その勢いに押されていじめっこたちはクラスの隅っこに押しやられていった。


(トクン)


琥珀は心臓が跳ね上がった。


「恋している場合じゃないよ」


琥珀に憑いている亡霊のウサモフが冷やかす。


「してないっ!僕は男だ!」


小声で少女は反論した。


「もし誰かが本当に給食費を取ったなら、今が正直に言うチャンスだよ。僕たちはクラスの仲間だから、きっと理解してくれる。間違いを認める勇気も大切だよ」


元就は、言いやすい空気を作ったが沈黙が支配した。


「霧霧。心を読みたい。犯人を見つけたい」


「言い忘れたけど1日5回しか能力は使えないよ。ある程度、犯人候補を絞ってからにした方がいいよ」


クラスメイトは30名いた。

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