性別の壁と年齢の壁
少女はカウンセリングの鉄則を思い出していた。
相手の言っていることを否定してはならない。
今、男がやっていることは明確に犯罪行為であり、一刻も早く、止めなければならない。
だが、止めようと焦って、道徳や法律を解こうとすると、却って相手の感情を刺激し、事態は悪化する。
どうすればいい。
琥珀は言葉を選びながら慎重に話さざるを得なかった。
ひとまず、情報収集をする必要があった。
「何があったんですか?」
「ガキにはわかんねぇよ。特に女にはな」
会話の拒絶。
ここまでの言葉選びのミスが相手の心を閉ざしてしまった。
琥珀は後悔した。
「性別で勝手に決めつけて、女にだってわかるかもしれないじゃないですかー」
と、売り言葉に買い言葉で返そうとしたが、相手が余計心を閉ざすだけなので言うのをやめた。
まてよ?と琥珀は考えた。
同じ売り言葉に買い言葉であれば、こっちのセリフを試しに言ってみてはどうだろうか。
案外、そう悪い方向に転ばないかもしれないと琥珀は考えた。
「何言ってるんですか。僕は男ですよ」
今の琥珀の肉体は少女そのものであったが、精神は成人男子なので嘘ではなかった。
「男だって?お前が?」
村八島は一瞬疑いの表情を見せたが、しばらくして、納得した。
「ああ、性の多様性ってやつか。女の体だけど男の心を持つとかそういう……」
まずいと琥珀は思った。
レズビアンだと解釈されては、女性扱いは変わらずで、説得がおそらくうまくいかない。
「男の体ですよ」
嘘をついた。
ウサモフのことも含めて洗いざらい説明すると、オカルトすぎて信じてもらえないと判断したからだ。
「じゃあ、なにか?女装ってことか?確かに小学生くらいの年齢だと、男も女も服装とかで判断するしかないからな!」
先走って解釈するので、琥珀もそれにのっかかってうなづく。
「クソっ。この手で確かめたいが、運転中だからな。まあ、わかった。信じてやらんでもない」
と、納得しかけたが、ハンドルをさらに激しく回す。
「男だろうと俺様の気持ちがガキに何がわかるってんだ!」
子どもには大人の気持ちがわからない。
性別の壁を乗り越えたら次は世代の壁が心の壁になる。
やれやれ面倒くさいやつだと琥珀はため息を付いた。
「ロボ戦士ファイトリア」
「!?」
意表をついたワードチョイスに男は驚いた。
「シールファイター大聖人」
いずれも古い子ども向けアニメと特撮だ。
琥珀は、子どもの頃、再放送で見たことがある程度でがっつりリアルタイム世代ではないが、村八島が世代であることを計算してあえてチョイスした。
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