女への憎しみ
意外な問いかけに男は驚く。
「なぜそんなことを聞く」
不気味な質問に男は、質問の意図を探ろうとしていた。
皮肉を言ってるのでは?と考えたのだ。
「頭が悪そうだね」と正反対のことを言いたい相手に「頭良さそうだね」と言うのは、欧米では決して珍しいことではない。
サーカズムと呼ばれる皮肉の一種だ。
日本においても、京都人が、帰ってほしい客人に「ぶぶづけはどないどすえ」などと食べ物を勧めることは都市伝説的には知られており、そういった言い回しが存在することそのものが全く知られていないわけではない。
文化圏によっては知的なコミュニケーション方法と評価する人がいる一方で、性格が悪くひねくれた言い回しだと捉えられることもあり、日本においては後者であると解されることが多い。
「俺を馬鹿にしているのか?」
沈黙した琥珀に対して男は質問の意図を確かめるための質問返しの意図を添えて聞く。
「いや、頭良さそうだなと思って。紐で結ばれたときも手際が良かったし、メガネがかっこいいし、勉強とかすごくできそう」
サーカズムではないと知った村八島はほっと胸をなでおろす。
「褒めて開放してもらおうとしてるな?」
「不思議に思ってさ。頭のいい人がなんでこんな理屈に合わないことをしているのかって」
琥珀も、ようやく犯人とコミュニケーションのプロトコルができ、ほっと胸をなでおろす。
話を聞いていくうちに落ち着くこともあるかもしれないと考えたのだ。
「俺って馬鹿だよな。こんなことで人生を終わらせてよ」
「じゃあ、自首しましょう!まだ、そんなに罪は重くない」
「うっせえ!黙れクソが!」
そこまで言うと男のなにかに火がついたのか、ハンドルを右往左往と回す。
琥珀は自分が乗っている車が、どんな軌跡を辿っているかは見えなかったが、蛇行運転しているのだであろうことはわかった。
琥珀は、結論を急いでしまった自分の浅はかさを反省した。
誰がどう見ても、自分を開放してもらうためにおべっかを使っているようにしか見えない。
村八島の運転はますます乱暴になり、彼の精神的な不安定さが顕著になってきた。
「女なんて、こうやって追い込まれたら調子のいいことを言いうんだ。ストックホルム症候群とか言うんだっけか?なめやがっていつも俺のことを馬鹿にしてるんだ!クソガキ!お前もそうだろ!媚びれば助けてもらえると思ってるんだろ。女なんてそんなもんだ」
ストックホルム症候群なんて言葉は普通は子どもは知らない。
にもかかわらず、難しい言葉をまくしたてるのはまるで見えない敵と戦っているようだった。
いずれにせよ、女というものに大して敵意を持っていることがはっきりした。
なにかこっぴどい振られ方でもして心に傷を負っているのだろうか。
琥珀は、元成人男性であることを武器に共感の意を示せないかと考えたが、今の彼はどこからどう見ても少女。
しかも、容姿に恵まれている方であり、どんな綺麗事を言っても男の心に響かないのではないかと絶望した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます