青年は小3の少女になり、OLも同級生の少年になり、亡霊の特殊能力に目覚めて少年探偵団を組むことにしたが未来に結婚フラグが立ってるなんて聞いてない

卯月らいな

青年は呪われた

考古学者、虎尾鯛助(とらおたいすけ)。


長身で容姿端麗、仕事熱心でに学問を究め、若くして考古学の大学教授の肩書を得る。


世のご婦人たちが彼の姿をひとめ見たら、目をハートに染めること間違いなし……のはずであった。


だが、彼は独身、女っけというものはまったくなかった。


暗い部屋の中、豆電球とテレビのモニタ、そして教授の眼光だけが光っていた。


「魔法少女!ウサキュート!へーんしん!チャージアップ!」


野太い男と声優の声とが混じって、部屋中に鳴り響く。


部屋の中は美少女アニメの抱き枕とフィギュア、DVDなどが乱雑に積みあがっていた。


テレビモニタの中の美少女がめまぐるしくくるくると回るのに合わせて教授のパイプ椅子も情けなくくるくると回る。


「先生!入りますよ」


助手はノックをして教授室に入ってあきれた。


「相変わらず、部屋に私物多いですね。事務室から怒られたばかりなのにまた持ち込んだんですか。何ですかこの番組は!本当にいい年して!」


「兎系美少女ウサキュートだよ。知らないのかね」


「ええ!知ってますとも。いつも、隣の研究室にうるさいくらい鳴り響いてますよ」


助手のツッコミを無視して教授はスマホを取り出し、画面をスクロールさせた。


「あああ!ふられた!」


「また、婚活アプリですか?」


教授が婚活中であった。


女性からふられるのは実に今日にはじまったことでなく助手はあきれた様子で肩をすくめた。


「そうだよ。おっかしいなあ。お見合いでウサキュートのすばらしさをあれだけ熱弁したのに……。なんで通じないんだろう」


時に、大学教授という職業は浮世離れしていると後ろ指を指されることがある。


それは、研究に一途すぎて、俗世間のならいを知らず、世の人が何に一喜一憂するのかも知らずに生きてきた人種が多いことから言われるようになったことだ。


だが、それは虎尾には当てはまらなかった。


彼は、むしろ俗物すぎた。


いい年して、アニメやゲームの女の子の窮地逢生に涙し笑うのであった。


「はあ……。せっかくモテる要素満載でうらやましいくらいなのにもったいねぇなぁこの人」


「ところで、なんの用かね?」


「ああ、実はですね。先日の発掘調査で、平安時代だか室町時代?の箱が見つかったでしょう?あれ、中身みていいかと思いまして」


「ああ、おそらく、平安貴族の女房の文学か何かが入っているのだろう」


「新発見かもしれないじゃないですか。アニメなんて見てないで、早く調査しましょう!」


「番組が終わったらね!」


「研究とアニメどっちが大事なんですかっ!」


「そんな究極の選択迫るなよ…。お前は俺の嫁かっ。ああっ。ウサキュート負けちゃう!」


美少女の泣き叫ぶ声を耳にした教授は再び画面にかじりついた。


あきれ果てた助手、牛野織楠(うしのおりくす)は、研究室に戻った。


「困った人だ」


ちらりと、件の箱を見やる。


「勝手に先に開けちゃっていいか」


もし、新発見だったら、と助手は胸を躍らせた。


歴史を塗り替えるものが発見されたら。


教授の顔を立てるために、開けずに今までいたけれど、自分が歴史を目にする第一発見者になるのも悪くはない。


そんな野心が胸をたぎった。


「箱を開くな!」


教授の声ではなかった。


中から声が聞こえた。


いや、きっと気のせいだ。


人が入れる大きさの箱ではない。


助手は震える手で箱におもむろに手をかけ、そして開いた。


すると、昔話の浦島太郎のように中から煙が立ち上った。


「よくも僕を眠りから解き放ったなあ」


「まずい!」


具体的に何がまずいのかはわからなかったが、良からぬことが起きていることは助手には直感的にわかった。


部屋の中は光に包まれた。


「げほげほげほ」


自分の咳の声が甲高いことに助手は気が付いた。


何が起きているのか。


ヘリウムガスでも入っているとでもいうのか。


なにこれ。


自分の体を包むのはきらびやかで赤い和装。


歴史を考古学を学ぶ助手は、自分の体を包み込むものがなんであるかすぐにわかった。


十二単だ。


「だから箱を開けるなといったのに……」


目の前に現れたのは、ウサギを擬人化したかのような不思議な生き物だった。


「君は……」


「僕の名前は宇佐門府(うさもふ)。白砂式部(しろさごしきぶ)に飼われていたウサギだ。君たちの世界では亡霊と呼ばれている」


「亡霊だって……?」


「そんなことに驚くよりもさ、自分の姿を鏡で見たら?」


「へ?」


助手が鏡を見ると、年はまだ小学生くらいの女の子が鏡に映っていた。


「これが僕!?ええええええええええええ!」

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