つきあかりのひめごと
絵巻物に書かれたかのような平安時代の姫カットになった髪がわさわさと助手の肩にかかる。
彼は前に一歩歩き出して、モフモフしたウサ公に近づこうとしたが、思わずこけそうになったので、やむを得ずその場でしゃべることにした。
「これは、君がやったのか?えっと、名前はウサモフだったっけ?」
「そうさ」
うさぎは悪びれもせず答えた。
「白砂式部が書いた、物語『つきあかりのひめごと』のヒロイン。桔梗の君。それが今の君の姿さ」
「そんな紫式部の『源氏物語』の夕顔の君みたいな……」
有名古典のパク…本歌取りのようなネーミングセンスに思わず彼は突っこんだ。
「白砂式部も源氏物語の女房の間での人気っぷりにあこがれで自分でも物語を書いてみることにしたんだ。それが、男子が月に棲むもののけの力によって、女子に変身する物語」
「じゃあ、その主人公に起きたことが今の僕の体にも起きたってわけなのか?」
「正解。今の君の顔と体は白砂式部の生き写しのようだ」
そう言われた助手は改めて鏡をまじまじと見つめる。
よくよく見たら、現代的な美的感覚で見て、なかなかの美少女である。
だか、その表情のどこかに影があった。
「なぜ。彼女はそのような物語を……。まあ、男装の姫と女装の若君が登場する『とりかえばや物語』というものがあったこともあるから、そんなものが書かれていても不思議ではないが」
「彼女は現代でいうと女体化BL同人を描く腐女子なんだ」
「なーるほど。だからこんな物語は布教したいけど、世間の目を気にして、自分だけの楽しみごとにして封印されていたのが、やがて呪いとして熟成されていったと」
「そういうことだよ。話の飲み込みが早いね、はっはっは。」
「はっはっは」
助手はしらじらしい笑いに対してしらじらしい笑いで返した。
乾いた笑いが研究室に充満した。
そのとき、隣の部屋からごそごそと音が聞こえて教授が研究室に入ってきた。
「その箱を開けるな!」
教授は今更なことを叫ぶ。
「開けちゃったのかね。っていうか君は誰?」
助手はあきれながら、教授の顔をまじまじと見つめた。
どきん。
「!?」
助手は己の心臓の高鳴りに驚いた。
まさか。まさか。
虎尾教授は、性格に難はあるものの長身のハンサムである。
そして、今の牛野助手は、恋に恋するお年頃の女の子。
「あっちゃー。ひな鳥の呪いが発動したかー」
「なにその呪い!?」
呪いの名前からおおよその内容は予想がついたが、ウサモフは説明をした。
「僕の呪いをかけられた女体化男子は、はじめて見た男を運命の相手と本能で認識するんだ」
「ふざけるなー!」
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