買い物メモが示す真実

この事件は、講師の悲鳴からはじまった。


叫び声を聞いた人々は学生に寄り添いながら、介抱をしていた講師の姿を見ている。


もし、これが、薬物で被害者を殺めた直後だとしたらどうだろうか。


問題の薬物を講師は、まだ、手にバッグに隠し持っていることになる。


その講師がトイレに行くと言っているのだ。


何をしようとしているかは助手には明白だった。


この中には女性は講師以外には助手しかいない。


助手がトイレに講師を尾行することはできる。


だが、結局は個室に入られたら手を出しようもない。


しかも、小学生になった助手が大人の女に力で対抗できるとは考えにくかった。


バッグの中のどこに劇物を隠し持っているのか。


薬瓶?ハンカチ?


それをさえ特定できれば、動かぬ証拠になる。


警察にそれとなく鞄を調べるよう誘導できる方法はないのか。


「ウサモフ。鞄の中に何が入っているかリスト化できないの?明文化されてるものでないと無理?」


「運よく買い物メモやレシートのようなものを残していれば」


「酒井明子 買い物 最新にソート順という条件だとどう出る?」


「やってみるよ」


「早くね。トイレ行かれちゃうから」


ウサモフが祈ると、検索結果としてレシート、買い物メモなどが表示された。


どちらにも証拠があるようにもないようにも見えた。


買い物メモの日付は、昨日のもの、最新のデータのように見えた。


「買い物メモ見せて」


中に書かれてるのは野菜、肉、衛生用品、菓子類。


野菜と肉は肉じゃがかカレー、シチューなどの材料のように見えた。


事件と関係のないものばかりに見えた。


この中に、今の酒井の鞄の中に入ってそうなものがあればいい。


「パインアメ……」


事件に関係あるかどうかは別にして、今、鞄に入っていても不思議ではないものだった。


「ねーねー。考古学のお姉ちゃん」


助手は初対面のふりをして講師に話しかけた。


「なあに?どこの子?」


「おなかすいた。お菓子持ってない?」


「ごめんねー。お姉ちゃん、ダイエット中でそういうの食べないんだ」


そこに修士が口をはさんだ。


「あれ?パインアメ持ってませんでしたっけ?今日、竹野くんに1つあげてましたよね」


事件当日、被害者に食べ物をあげていた。


そして、その被害者が毒で死んでいる。


新事実だった。


「え、ええ。まあ、人にプレゼントする用にね?自分が食べるわけじゃないけど」


「それは本当ですかな?」


警部の重い腰が動いた。

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