デジタル少年律登場
「小学生に戻るだって!?」
佐藤連、38歳はペンギンの亡霊に向かって叫んでいた。
「そうだ。電磁波を操る能力もつけて。悪くないだろ?」
「そんな抱き合わせ商法みたいな……だが悪くない」
あごに生えた無精ひげをいじりながら佐藤は言った。
彼は、若き日から、下請け会社を実績を積み重ね、セキュリティエンジニアとしての腕を磨き続け、この年でようやく、東証プライムの大手企業に社内SEとして入ることができた。
だが、女縁というものがなく、モテモテモードで人生をリスタートしてみたいと思っていたのだ。
OSの再起動によってパソコンがすこぶる好調になる感覚のように。
思えば、彼も若いころは、陸上部で足が速い方で女性にモテなくもなかった。
初恋の女子もいた。
だが、遊ぶことを避けていた。
もう一度、若返って、モテモテ人生を歩んでみたい。
彼はそう考えたのだ。
「いいだろう。ペンギンよ。その呪いに乗った」
その日、外は雷鳴が鳴り響き、土砂降りだった。
「みなさん。転校生が来ました」
「うちのクラス転校生ばかりじゃないかー」
がやがやと嬉し混じりのヤジが飛ぶ。
「はいはい静かに静かに。では自己紹介をお願いします」
「はじめまして、佐藤律です。あいさつ代わりにちょっと手品をお見せしよう」
律が指をパチンと鳴らすと、学習用に配られているタブレットの電源がすべてONになった。
そして、律の顔が写真のようにでかでかと映ったかと思うと、徐々に形がシンボリックに変形していき、やがてフラットデザインなアイコンのような意匠になった。
「すごい」と拍手が沸き起こった。
「どうやったの?」
「僕もやりたい!」
と、子どもらしいキラキラとした好奇心に富んだ質問がクラスに飛び交った。
「みんなのタブレットのブートローダーに電波を飛ばして起動。その後、学習向けのプレゼンテーション用アプリに400KBほどのGIFアニメーションデータをクラウドストレージにアップロードして共有、画像表示ソフトから起動しただけのこと」
「なんか知らないけどかっこいい!」
子どもたちが沸き上がる中、予想だにしないデジタル機器の使い方に対して、困惑していた。
「ちょっと、佐藤くん?先生に無断でそういうことしないの!」
「すみません。ちょっとみんなを驚かせてみたかっただけです」
彼は舌を出して頭を下げた。
少女は、デジタル技術には少しは明るい琥珀は一連のやり取りを注視していた。
律の芸当は、単なる人力によるハッキング技術で実現できるものではない。
亡霊の力を借りたものであることを見抜いていたのだ。
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