元OL VS 元エンジニア男子

「ウサモフ。あの子、亡霊が憑いているか見える?」


「憑いているね。ペンギンの亡霊が」


「やっぱり……」


ウサモフは、真横にいるパンダの亡霊にはあえて触れずに答えた。


琥珀から聞かれない限りは、特に答えるつもりはなかった。


「なんの能力者?」


「さあ?」


うさぎはペンギンの能力について本当に知らなかったし感心もなかった。


「じゃあ、そこの開いている席に座ってね」


「はい」


先生が指をさしたのは、琥珀の隣、元就の二つ隣だった。


「おや?」


歩きながら、琥珀の顔を見つめる。


「なんでこっち見てるの?亡霊が憑いてるってばれてる?」


「さ、さあ……」


「織姫ちゃん?織姫ちゃんじゃないか!」


「!?」


「何言ってるの?転校生。その子は虎尾琥珀ちゃんっていうんだよ。そんな浦島太郎に出てくるお姫様みたいな名前じゃないよ」


織姫という名前に琥珀は固まった。


牛尾織姫。


それは、幼少期に死別した年の離れた姉の名前だからだ。


「お、おかしいな。初恋の女の子に顔が似てたもんだからさ、はは。そんなわけないね」


琥珀は把握した。


彼は、姉と同い年の成人男子から若返ったのだ。


そして、ズボンが明らかにもっこりしていた。


(こいつ、僕に対して、いや、僕を通してお姉ちゃんの幻影に欲情してる……)


「よろしく。琥珀ちゃん。仲良くしようね」


手を差し出した。


「よ、よろしく」


握手すると律の手はめちゃくちゃ汗ばんでいた。


おそらく、緊張しているのだろうか。


好かれること自体は嫌じゃないが、異性として意識されていることに琥珀は動揺していた。


一方で、元就は素早く律の心をパンダに読ませていた。


「色気づいてるんじゃないぞバーカ」


「な、なんだね。君は!」


「いや、考えてることが見たまんまなやつだと思ってね。ぷっ」


「お前なんか偉そうでむかつくな!」


「君こそ専門バカっぽくて偉そうだよ」


「なんだと?」


琥珀の頭上でふたりの男子が喧嘩する。


「ちょ、ちょっとやめなよ。二人とも仲良く」


まるでいい子ちゃんの女子になってしまったような気分に琥珀はなる。


その正体が成人男性であることを隠し、優等生女子を演じる行為が、元の自分とは違う仮面を被っているようで少しだけ快感を感じ始めていた。


「あっかんべー」


「ふん」


二人はそっぽを向く。


琥珀は、優等生女子ならば、この局面でどのようなセリフを言うのかを考える。


「もう! いい加減にしてよ、二人とも!わたしたちはクラスメイト、友達でしょ?仲良くしなきゃダメでしょ」


それを聞いた律は少し恥ずかしそうな顔をしていたが、元就は少しムッとした顔をしていた。


そして、そのムッとした顔は、やがていたずらっ子のような笑みに変わった。


元就は琥珀の肩に手を置いた。


「こいつ、俺の女だから。絶対に手を出すなよ」

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