OL島野亜寿沙登場
島野亜寿沙は、疲れた目をゆっくりと開いた。
朝の光が部屋のカーテンを通り抜け、彼女のベッドに静かに降り注いでいる。
時計の針は既に朝の7時を指していた。
もう一度深く息を吸い込み、彼女は重い身体をベッドから引き剥がした。
このルーチンが、日々の疲弊を象徴しているかのようだった。
彼女のアパートは小さく、生活感が溢れていた。
未洗濯の洗濯物が籠の中で山を成し、テーブルの上は昨夜の食事の残骸と未処理の郵便物で散らかっている。
亜寿沙はため息をつきながら、キッチンへと向かった。
コーヒーを一杯淹れる。
それだけが、彼女の朝の小さな慰めだった。
彼女は出版社に勤めていた。
一見華やかに思えるかもしれない。
しかし実際は、終わりの見えない編集作業、絶え間ない締め切り、そして常に上司の期待に応えようとするプレッシャーに追われる日々だった。
彼女は、いつしか自分が本当に望んでいたものが何だったのかさえ忘れてしまっていた。
窓の外を見ると、街はすでに活気に満ちていた。
人々はそれぞれの目的地へと急いでいる。
亜寿沙もまた、その流れに身を任せなければならない。
彼女は一つ深呼吸をして、自分を奮い立たせた。
そして、もう一日、ただ生き延びるために、小さなアパートを後にした。
「呪いの壺?」
「ええ。中国は唐代の詩仙の一人、李黒が死の前に残したと言われている壺ですよ」
「どう見てもガセ臭い名前じゃない。李白にあやかって李黒とか。パッチもんの人物を捏造するにしてももう少しなんとかいいネーミングセンスにできないの?」
亜寿沙は、オカルト雑誌のフリーライターに向かって言った。
彼女は純文学の編集をやりたかった。
だが、志望通りの部署に配属されるとは限らないのが社会というものである。
フリーライターは、彼女の辛辣なコメントにも動じず、壺の話を続けた。
「でも、この壺にまつわる伝説は、地元では真剣に信じられているんですよ。呪われた壺を手にした者は、稚児になるとか」
「稚児?命を奪われるとか、家族を失うとか呪いってそういうものが多いじゃない。稚児、つまり現代でいうと少年になるってどういうこと?」
「己の人生に後悔している人物に働きかけて、人生をやり直すことができるんですよ。女性であっても男の子になるとかで」
亜寿沙はそれを聞いて胸がざわめいた。
男の子に生まれていたら、どんなに生きやすかったか。
そんな思いを胸に秘めて生きてきたのである。
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