第21話 霊界の臆病者
談話スペースで、日向は湊に缶コーヒーを奢る。
湊は彼女からもらったコーヒーを片手に、ソファーに座った。日向も同じコーヒーを買うと、湊の正面に座って缶を開けた。
湊は大雑把な行動をする日向に内心怯えていたが、日向はそれを見透かしたように「わりぃな」と言った。
「昔っから
相変わらず何を言っているのか分からないはずなのに、湊には千寿の翻訳が必要ない。
湊は「いいじゃないですか」と彼女をフォローした。
「モモちゃんだって、頑張って敬語使っていますけど、タメ口があまりにも怖いから矯正かけてるだけですし。ここに住んでて、困ること無かったのならそれでいいでしょう」
「……
「あはは、何言ってるか分かんないけど、なんか分かるんですよね」
「
「そうですよね」
談笑して、お互いの緊張感を解く。
湊はふと、日向に尋ねた。
「ここに残りたいのは、おばあさんの最期を看取りたいからですか」
湊の問いに、日向は「
日向はテーブルに缶を置くと「それもある」と、煮え切らない返事をした。
「ひよこ
「ひよこ……日和さん、目が悪いんですか?」
目に障害があるという割に、彼女は眼鏡をしていなかったし、歩行や視界に不便そうな素振りが無かった。しかし、日向の話だと弱視があるらしい。
「生まれつき良ぐ
「あぁ、なるほど。じゃあ点字読んだり、移動は誰かの送迎が必要になったりするんですね」
「
日向はそう言って、花瓶を持って歩く日和をじっと見つめる。
大人しそうな雰囲気で、日向とは対照的に物静かな彼女は、誰かの手を借りないと生きていけ無さそうにも感じる。
湊は納得するが、先生の死を二の次とする発言が気になった。
大事な人の最期を、そんな軽く流していいのだろうか。湊が思い切って尋ねると、日向はあっけらかんとして答えた。
「
何かと忙しい学生時代の恨みか、日向は「
湊は彼女を窘めようとしたが、口に出来なかった。
「……いつまでも不安で
日向の言葉は、自分自身に潜む恐れによるものだった。
日向は先生を恨んでいるわけじゃなかった。日向は湊にこぼした。
「誰がの死が
日向はそう言った。彼女は、強いわけじゃなかった。
「花紋持ちのそばでは一人死ぬ。誰がの死が、花紋持ち
日向は目を閉じる。
彼女の瞼の裏には、さっき病室にいた日和の姿がある。
湊は日向に声をかけたくても、何を言ったらいいのか分からない。
日向は鼻で笑った。それは、自分に向けた嘲笑だった。
「ひよこは、強ぇがらな。
日向は健気な日和のことを褒めた。その上で、彼女はこう言った。
「
湊は彼女の不安に寄り添う言葉がどうしても見つからなかった。
ちょうど、売店から帰ってきた百瀬とギンが、湊たちに声をかける。
「こんなところに。適当に軽食になりそうなものを買ってきましたよ。……おや、飲み物は要らなかったようですね」
百瀬は袋の中を覗いて眉を下げる。
その時、病室から千寿と日和が出てきて、湊たちに合流した。
千寿はこの十数分でやつれていて、日和が心配そうに付き添っていた。
「先生、末期がんって嘘じゃない? かなり元気だったよ。これじゃあしばらく死にそうにないって」
「
日和が苦笑いすると千寿は頭を掻いた。
百瀬が買い物してきたのを確認すると、千寿は「飲み物ある?」と百瀬に尋ねる。
百瀬からいちごミルクをもらうと、「公園行ってくる」と日和と出かけた。
「俺たちどうする?」
「そうですね。どうしましょう」
「荷物置く
「そうですけど、でもホテルまだ決めてなくて」
「……嘘でしょ。ミナちゃん、分かるんですか?」
百瀬がショックを受けている間、湊は日向にホテルを尋ねる。しかし、日向は「布団四枚で
百瀬が「ホテルの話ですよね?」と尋ねると、日向は首を傾げた。
「ん? 家
日向は車の鍵を出すと、「
湊たちは強引な日向にキョトンとしてついて行った。
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