第6話【そんなに高くないね】Fさんの語り(心霊/人怖)

 これは俺が昔やんちゃしてた時の友達、橋本くんの体験談です。


(補足:彼ではない。男性。かなりネットリした話し方をする人。40代くらい?6人目なので仮にFさんとしておく)


 橋本くんは俺とつるみ出す前から、関西では有名なやんちゃグループ、というかもう殆どチンピラやくざ。警察に捕まっても誰も文句言えないし庇ってくれないような、そんなメンバーの一員だったんですよ。

 で、そいつらがある日軒並みバイクの免停になってね。理由はお察しくださいなんだけど。夜やることが無くなっちゃった。やんちゃグループって、基本的に退屈に耐えられなくてね。ほとんどが家にいられない、いたくないようなやつらですよ。だから若いメンバーで集まって。でいつもなんかやってる。それが安心するんだよね。なんか疑似家族的な暖かさがあってさ。


 夜の繁華街にいっても、いつもバイクでいわしてるメンバーが歩いてる所見られるとバカにされそうだから、しばらくは賑やかな所に行けない。それならってことで、六人くらいでちょっと離れた所に肝試しに行くことになったのね。

 ヤンキーの肝試しの怖い話ってたっくさんあるけど、あれ理由としては、ヤンキーが一番肝試し多くしてるからだよね。普通の神経があれば、人が死んだ所にわざわざ行ったりしないもんね。やっぱ頭バグっちゃってるんだろうな。

 で、そのやんちゃグループのリーダーが大平くんって言うんだって。大平くんは怖いもの無しの性格でね。

「うぉーいお前ら自殺マンション今から行くぞー」って言い出して。

 自殺マンションってのは、まぁ京都にある有名な心霊スポットでね。よく人が自殺でとびおりて死ぬからそう言われてる。とかいっても廃墟とかじゃなくて、普通に人がまだ住んでる所なんだよね。かなりの人数亡くなってるんだよ?しかも飛び降り自殺で。それなのに住民がまだいるんだよね。


 その飛び降りってのもね、ベランダから庭とかに落ちてくんじゃないんだよ。建物が、こうカタカナの「ロ」みたいになっててね、一階の真ん中が踊場で、そこから上は吹き抜けになってるのね。で、なぜかみんなマンションの最上階、十階の廊下からその吹き抜けを通って、踊場にビターンって落ちるんだよね。自分の死体が住民に見られるし、何より死んだときの音も聞かれると思うけど、死ぬ人はそういうの関係ないのかもね。ただ、みんながみんなそんな死に方するなんて、ちょっと気色悪いと思うけどね。

 で、大平くんはそこに行くぞと。みんなやること無いから「そうや、行こうぜ!」とか言って、無免なのに車運転してそのマンションを夜に行ったわけ。


 外見は別にこう、変わったところはないんだな。窓に明かりも着いてるし、ベランダに洗濯物がかかってる部屋もあるし、普通に人が生活してる感じもするしね。

 そんな中、大平くんとか橋本くんとかがずかずか入っていっちゃった。

 扉のロックとかは無くて、普通に他人が入れちゃう構造なんだって。管理人室はあるけど、人もいないみたいでね。

 ひょっとしたら、こう、自分でね、命を絶ちたいって人がね、このマンションの噂を聞き付けてフラッと来てね、そのまま…ってことなのかも知れんなって話したりするんだけど、まぁ怖くないわけ。別に廃墟でも無いから電気も通ってて明るいしね。

 まぁせっかくなら上まで上がろうぜってことで、六人でぞろぞろ階段登ってったわけさ。地元住民の迷惑も考えずに。

 エレベーターも無いマンションの十階って、それはそれは上がるの面倒なのよ。やっと着いたときにはみんなちょっと疲れててね。一番身体作りしてた橋本くんが最初に到着した。

 そこの廊下から一階の踊場見下ろすとね、うわー高いなーって。流石にここから落ちたら絶対死ぬなーって。


 そうしたら後ろからね

「なんだよ、そんなに高くないね」

 って言って、大平くんがポーンと手すり乗り越えて落ちてったのね。

 それで下の踊場にビシャーン

【手を叩く音】

ってぶつかって。どう見ても死んでるんだよね。頭が割れて血が出てるし、足も変な方向に曲がってるし、脇腹から骨も付き出しちゃってるし。それが上から見えるのね。橋本くんなんか、大平くんが落ちてる途中に手足をバタバタさせてるのも見てるわけ。


 最悪だ、なんで死んだんだ、そんな感じじゃ無かったのにって思いつつ、橋本くんたちはさ、警察の厄介になるのも嫌だから、そのまま逃げてきたんだって。警察とかにも電話しないで。その後どうなったかも知らないらしいんだけどさ。

 でもさ、大平くんが落ちたビシャーンって音は、吹き抜けに響いてほぼすべての部屋に聞こえるくらい大きな音なのに、住民は誰も出てこなかったんだって。ひょっとしたら通報もしてないかも。だってパトカーとか救急車の音としなかったもんって橋本くん言ってたね。

 あとね、大平くんは死ぬ感じ、鬱だとか悩んでるとかな感じが全然無くてね。帰りにどこで酒飲むかとか言いながらマンションに行ってるんだって。それなのに、「あんまり高くないね」って言って、そのまま飛び降りるって、常人のすることじゃないよ。

 でも友達が死ぬのを見ても、そのまま放置して帰れる橋本くんもかなり気持ち悪いよね。その程度なのかって思うけど、きっと橋本くんも親からその程度の扱いだから、仲間にもその程度の関係値でしかいられないのかもね。


 そういう奴らだから、きっと心霊スポットにズカズカ踏み込んで行けるんだと思うよ。


(補足:橋本さん、もしこの投稿を見てましたら、この話の話者が誰なのかご連絡頂けますと幸いです。)


【少し間があり、次の話へ】

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