第9話(始まり・きっかけ編)【霊媒師の出る幕はない出来事】Iさんの語り(心霊)

 今から5年ほど前、雑誌の取材で、ある霊媒師の方とお会いしました。


(補足:彼ではない。女性。また女性!今回は40歳ほど!彼はいつも私をイライラさせる!9人目なので仮にIさんとしておく。非常に長い話のため投稿を数回に分けます。何回くらいで終わるのかわからないな…)


 その方はTV出演NGの方なので、あまり知っている方はいないかも知れませんが、祈祷や雑誌でご活躍される際は月照道希釈児(げっしょうどうまさこ)さんと名乗られています。

 まさこさんは幼少期から霊感鋭く、小学校の頃から様々な心霊的出会いをご経験され、取材当時の85歳の頃は青森県恐山近くに住まわれており、ひっそりとさ迷える魂の救済に勤しんでおられました。

 その様な方にインタビューさせて頂くのはとても緊張することでしたが、まさこさん曰く、私の身体に流れる明(めい)の気がまさこさんのお力になれるということで、何回かの電話インタビューの末、なんとかアポイントを取り、青森県にある彼女の修行場にお伺いすることになりました。

 そこは電波の届かぬ山の中に有りますが、門構えは大変ご立派で、まさに神に使える方の住まわれる場所、というオーラを醸し出しておりました。三名ほどの巫女がまさこさんと同居されており、まさこさんの身の回りのお世話や、時たま私のように連絡を取ってくる者の対応、除霊、お祓い、祈祷のお手伝いなどをされているとのことです。

 まさこさんは今では小さくて可愛いおばあちゃんという印象ですが、現役時代は恰幅も良く、まさに生命力に満ち溢れる豊穣を司る女性といった外見をしておられました。今でもその漲るオーラを失ってはおられません。

 まさこさんのお話は非常に興味深く、まだ見ぬ未来のお話や人の業、かつて出会った怪異などを通して様々なことを説法頂きました。


 と、ここまで持ち上げておいてなんですが、私からするとまぁ良くいるタイプの霊能者でしたね。当たり障りの無い道徳的なお話をする、信者には高額なお線香を販売されているような、まぁ私からすれば取り扱いに慣れたオーソドックスタイプの霊能者でした。

「電波の届かない場所なので、ご連絡は全て固定電話で」とのことだったのですが、お家の外に電話線が無かったのを見ると、おそらくWi-Fi完備でしたね。だいたいそういう方のお住まいは床暖房完備なので、玄関を入った瞬間にすぐわかります。

 私はまさこさんのお話に感銘を受けている風を装い、そろそろお布施アイテムの購入を薦められそうだ…というタイミングで、いつもの最終質問を切り出します。


 それは「今までで手に負えなかった案件はありますか?」という物です。

 自分を強く見せたい方ほど、そんなものは無いという自慢話をされます。ちょっと設定が出来上がっている方は、非常に解決が難しかった出来事のお話をされます。それでもギリギリ怪異に打ち勝ちます。負けたりご本人が逃走されるパターンは100件に一つあるかないか。

 今回お話するのは、その時まさこさんがお話された、「霊媒師の出る幕がない出来事」についてです。まさこさんがご年齢の割にはかなり具体的に話されていたのもありますが、そのお話を伺った後に私の方で事実確認をした部分もあるので、少し話が長くなってしまいますがご容赦ください。


 では…。


 1965年の9月。まさこさんは、森に鳥の幽霊が出るという依頼を受け、H県に向かいました。当時、霊媒師として売り出したばかりだった二十代のまさこさんは、どんなに少額の依頼料で、変な内容でも声がかかれば、移動費の方が報酬より高かったとしても、そこに出向いて祈祷を行っていたそうです。

 メールも無い時代。数年前に旅客駅になったばかりのH駅を降りた彼女を、K市長の山村さんが出迎えました。普通こういった依頼は個人の方が人目を憚りこっそりとされるものが殆どだったので、市長さんが直々に車で出迎えに来るという事に、まさこさんはかなり驚かれたようです。

 昨年ホンダから発売されたばかりのT360に乗り込み、市長と二人で駅を離れます。車はどんどん川沿いを通り山奥に入っていきます。つい先日まで台風が来ていたため、川は増水し、橋を渡るときはかなり怖かったといいます。


 道中、まさこさんは山村村長から依頼の詳細を聞きました。

 どうやら、市中の山にある神社に向かった観光客が行方不明になったのが事の発端のようです。

 K市のホテル、当時は宿でしょうが、そこに来ていた観光客が、荷物を置いたまま帰ってこなくなったそうです。その人は朝、その市にある平戸寺白大山神社に行くと言って出かけたらしいです。

 白大山はまさこさんが乗っている車からもよく見えました。どんよりとした空の下、日陰で黒く塗りつぶされたような山は、霊言あらたかではありつつこちらにのしかかってくるような、少し怖い印象があったそうです。

 行方不明者の捜索が警察によって行われましたが、結局その観光客は一週間経っても見つかりませんでした。


 それから、山の麓では妙な噂が立ち始めます。

 山の奥に身の丈より遥かに大きな鳥がいた、夜な夜な「ケケケケケケ…」という聞いたことも無いような鳥の鳴き声が山からする、神社の参道に見たことない動物の足跡がある…。


 白大山は遥か昔、それこそ平安時代よりも前から麓の住民たちによって信仰されてきました。それは山から流れ出る豊富な水源が住民の生活を助けていたからでしょう。なので平戸寺白大山神社も、今でこそ古事記に出てくる神を祀っていますが、完成当時は山そのものを信仰するために作られたようです。

 そして、白大山神社にはもう一つ特殊な信仰があります。それは白大山から流れる九頭鳥川への信仰です。九頭鳥川はH県を流れる非常に大きな川で、今では上流にダムがあります。かつて高名な僧侶が九頭鳥川に差し掛かると、身の丈ほどもある鳥が近寄ってきて彼に美しい玉(ぎょく)を授けたそうです。僧侶はこの玉を大変有り難がり、白大山に神社を建て、山と玉を祀ったという伝説もあります。


 そんな言い伝えがあってか、市に住む人々は白大山神社で祀っていた鳥の神様が社から抜け出したのでは…と噂し始めました。もちろん、当時は東京オリンピックが終わった翌年。新幹線はすでに開通し、5年後には大阪万博が開かれるというご時世です。流石に心霊話を人々がすぐに信じるわけがありません。

 ですが更に事件が起きました。観光客行方不明事件から二週間後、山にきのこ狩りに行った地元の男性が帰宅せず、心配になったご家族が警察に通報。捜索の結果、男性のものと見られる服と、左腕が発見されました。どちらも血まみれで、強い力で引きちぎられたような跡があったと言います。警察は調査の結果、熊に襲われた事による獣害事件という結論を出したそうです。

 ですが、本州の熊は人を襲いません。襲ったとしても草食なので人間を食べるようなことはしないでしょう。特に時期としては夏場。冬眠に備える時期でもありません。


 死者や行方不明者が出ているにも関わらず、何の対策もしない市長の元には抗議が殺到しました。

 白大山神社の神主による祈祷も行いましたが、その後も謎の鳥の鳴き声騒動や目撃情報が相次ぎ…。

 猟師を呼ぼうにも獣は何かもわからないし、無駄に市に滞在されれば市からの出費も増えるし…。

 そこで市長は、霊媒師の方を呼んで山で祈祷を行おうと考えたようです。様々な霊媒師の方に連絡を取ったそうなのですが、謝礼が少ないことを理由に断られ続け、結局引き受けたのがまさこさんだけだったとのことでした。

 かなり正直な話をされて最初は面食らったそうですが、自分の祈祷で少しでも市の方々の心が安らぐのであれば精一杯やりますと、まさこさんは村長に伝えたそうです。


 宿に着いたのは既に日の落ちた夕方でした。受付のラジオからは昨年からの大ヒット曲、坂本九の「上を向いて歩こう」が流れています。今日の宿泊費は市で持ってもらい、明日の昼頃に白大山神社の境内で祈祷を行った後は、そのまま車で駅に向いそこでお役目ごめんというのがまさこさんのスケジュールでした。

 ただ当時の交通事情、JRではなくまだ国鉄運営の時代ですから、夕方からの汽車で家には帰れないため、結局H駅近くの宿で一泊する必要があるのですが、その費用はまさこさんの実費だったそうです。


 宿で荷解きをしていると、山村村長が焦った様子でノックもせず引き戸をガラッと開けて入ってきました。

「神社にまた幽霊が出たらしいで。すまんがちょっこし一緒に来てくれんか」

 宿から神社までは歩いて30分ほど。もうそろそろ暗くなるため山村村長とまさこさんは、宿で懐中電灯を借りて神社に向かうことにしました。


(補足:話が非常に長いので次回の投稿に続きます)

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