第2話【のぼり旗】Bさんの語り(心霊/人怖)
じゃ、次は自分で。
(補足:男性。彼ではない。声は比較的若い。25歳から30歳ほどの人?二人目なので仮にBさんとしておく)
遠野物語でも出てくるんですけど、「屋根の上にたくさん旗が立ってる」って怪談、昔から多いんですね。
例えば、屋根の上に白い旗が何本も立ってるのが見えて、不思議だなって思ってたら、翌日そこの家の人が亡くなったとか、
赤い旗がびっしり屋根に立ってて、後日その家が火事になったとかね。
どうして旗なのかっていうのは、例えば空から神様が見つけやすいとか、何かの目印だとか、そういう理由があるのかも知れないですけど、それなら一本立ってればいいわけですよ。
僕は旗がたくさんあることに意味があると思うんですよね。
これはあるサークルで会った佐久山さんに聞いた話なんですけどね。
彼が大学生のとき、人生で初めて車を買ったんだそうです。もちろん中古車ですよ。それでも自分の車ってだけでテンションあがってね、友達三人誘ってドライブに出ることにしたんですって。
四人でワイワイ騒ぎながら、あっちいったりこっち行ったり。ガソリンスタンドで給油するだけでも大盛り上がりで。
「どうやるんだー!」とか、「洗車してくか?」「ばかやろう買ったばっかだぞ!」みたいな。
そんな感じだったんで、あっという間に夜になって。でもまだまだ遊び足りない。そこで、まぁ肝だめしというか、心霊スポットに行こうって話になった。
岡山県に、ちょっとマイナーですけど、山の中にある、お化けが出るって噂のある墓場があって。一番近かったからそこに行くことにしたらしいんですね。
向かい始めてからわかるんですが、夜の暗い道を車で走るって、ドライブ初心者にとっては結構怖いんですよ。
真っ暗で道も細くて、明かりは自分の車のヘッドライトだけ。もうハンドルさばくだけで必死でね。
助手席の柴田さんがね、スマホ見ながらナビしてくれるんですけど、佐久山さん以外の三人が「気を付けろ!!」とか「そこカーブ曲がりすぎるな!」とか「対向車注意!!」とか、とにかく緊張して運転してる佐久山さんをからかって煽るんですね。運転ミスして事故でも起こしたら、自分たちも巻き込まれるのに。
とにかく佐久山さんは運転に必死で、暗いながらも目を見開いてこうガードレールに擦らないかとか、中央のラインを越えないとか意識しながら運転してたらしいんです。
すると前方にね、うっすらと縦長で白いヒラヒラしたものが見えてきた。近づいてってヘッドライトでそれが照らされて判ったんですが、のぼり旗が一本立ってたと。
パーキングエリアとか休憩所があるのかな?と思ったけどそうでもない。車道の途中、ガードレールしかない、駐車スペースもない所に旗が立ってる。
そののぼり旗は別に変なものじゃなくて、よくある、下に水を入れるタンクの重りがあって、旗はこう、逆L字のプラスチック棒があって、風が吹いてなくても旗の布がピンと伸びて見える、パチンコホールの前とか、大安売りしてる店とかに置いてあるような、本当にどこにでもある旗がポツンと置いてあったと。
で、その旗に文字が書いてあって。「○○霊園まであと100メートル」って。
なるほどね、この道進んでいけば霊園があるぞと。
その先にまた旗があって、「あと50メートル」。
もうすぐだもうすぐだってみんなで言いながら坂道を車で登っていく。
すると「○○霊園こちら」って、矢印の書かれたのぼりがあって、ちょっとした開けたスペースもある。霊園の駐車場入り口にやっと着いたわけなんですが、周りも森だし、いかんせん真っ暗でね。夜にお参りに来る人なんていないから、本当に見える範囲は車のヘッドライトの灯りだけ。照らされてる地面だけが見える。
もともと行くつもりもない肝だめしですよ。四人とも雰囲気に飲まれるというか、怖くなっちゃって。「ほんとにいくか?」「車から降りるか?」とか、さっきまで盛り上がってたのに、途端に車内が静かになっちゃった。
佐久山さんちょっとそこでね。さっきまであんなに自分に色々言ってたメンバーに仕返しがしたくなって。ただ自分も怖いから車からは降りたくない。
だから、本当は、車を切り返して、出るとき出やすいようにバックで入るであろう駐車場に、わざとハイビームにして入っていったんですね。
そうすると、お墓側がハイビームにしたヘッドライトで照らされて、もしかしたら墓石とかが見えて、周りが怖がるかもしれないと。ひょっとしたらお化けも見れるかも知れないしね。
で、ゆっくり車を駐車場に入れていく。下は舗装もされてない砂利だから、車が駐車場を移動すると「ガリガリガリガリ」って音が車内に響いて、かなり空気感がものものしい。
「怖いなー」「雰囲気あるなー」なんて話しながら、駐車場の奥へ入っていって、ヘッドライトで駐車場の向こうを照らすとね。
照らされた、だいたい10メートルくらい先に、雑草が茂ってて、その後ろ、お墓があるであろう、ちょっと整備された感じのエリアにね、大量ののぼり旗が立ってたんです。さっき「あと何メートル」って書いてあったのと同じものが、ちょっと高低差とか、均等ってほどでもない並び方をして、奥にも横にも、ずらっと並んでる。
パッと見ただけでも20から30はある。
たださっきまでの旗はちゃんと文字が書いてあったんですけど、こっちに並んでるのは全部白い布が張ってるだけなんですね。
あまりに異様なんでね、怖さより「なんだあれ?」みたいな好奇心が勝っちゃって。
佐久山さんたち皆無言で、何を見たいってわけじゃ無いんですけど、「何か旗に書いてあるかな」「古すぎて文字が消えたのかな」みたいな感じでじっとフロントガラスを覗き込んで、旗を眺めてた。
そうしたら柴田さんがいきなりね
「バックバックバック!!」って叫び始めた。
顔見ると真っ青で、ただ正面をじっと見てるんですね瞬きもせずに。
「早く!!バックバック!!」
「え何?どうした?」
「足!足!旗の下に足!」
佐久山さんがのぼり旗の布の下の方、布が無くなってから、重りが置いてある、旗を立ててる部分を見たらね、人の足があったんです。
つまり、のぼり旗の、布がこう張ってるでしょ。その後ろにね、人が立ってるんですよ。全部の旗の後ろに。ズラって。
しかも、気が付かなければいいんですけど、その足の向き的にね、みんなこっちに身体向けてるんですよ。
こっち見てる!!怖い!!
佐久山さん力んでね、そのままアクセル踏んじゃったんですよ。
車が勢いよく、のぼり旗がずらっと並んでる方に急発進する。
ズザザザザザーっ!!!
のぼり旗がどんどん大きくなる!足もどんどん近づいてくる!
あと5メートル!まずい!!ってブレーキをダ―っと踏むとね、砂利の上でしょ。
車がスリップして止まんなくなっちゃった。砂利が跳ねて車体に当たるんですよ。
バリバリバリバリバリバリ、ザザー、ドーン!
目の前の茂みに突っ込んだ。
佐久山さん運転中ずっと前向いてたから見えてるんですけど、車のフロントにね、
真ん中から折れ曲がったのぼり旗が食い込んでるんですよ。
つまりね、のぼり旗の裏にいた人、ひいちゃったんですね。
もう何も考えられない。頭真っ白ですよ佐久山さん。放心状態。
でもね、ひいちゃった旗は一つだけで。周りにはまだたくさん旗が有るんですよ。
ってことは、周りにまだ2,30人がいるんですよ。
真っ暗闇の中、のぼり旗の後ろに立ってたやつが。
その時柴田さんが咄嗟にね、ギアをバックに入れてくれてね。
「早く逃げろ!!逃げろ」って。佐久山さんもそこでやっと体が動いて、もう周辺の確認も無しにね、急発進して、なんとか駐車場を出て、ガードレールに車体こすりながら山降りたらしいんですよ。
佐久山さん途中で「なぁ、俺人ひいちゃった!ひいちゃったよなぁ?どうしよう?」
「ばかやろう、あんなの人なわけねーよ!そういうデザインの旗なんだよ!」
なんて話しながら。とにかく山から降りて、とりあえずコンビニ行って。そこにあった「おにぎり100円」ののぼり旗にみんなびびってたらしいですけど、怖くて怖くて、日が出て明るくなって、コンビニに人が出入りするようになるまで、四人ともずっと車から降りないでじっとしてたらしいですよ。
【ガタンという音】
ん?どうした?
【しばらく間】
まぁいいや。この話長いから、一旦ここで切ります。続きはこの後話すけど、キリのいいところまで…。
その後ね、まぁいろいろあるんですが、佐久山さんは結局ひき逃げで逮捕されることも、そもそも警察が家に来ることもなくね。まだ犯罪者じゃないってことですかね、まだ。ひかれた人からの通報もなかったんですかね。もし人だったらね。目撃者もいますからね。
佐久山さんはせっかく買った車をすぐ売っちゃったらしいです。なんかもう運転席から外見れないって。それ以降自分では車を運転したこと無いって言ってました。
佐久山さんの話はここで一旦終わりなんですけどね。
のぼり旗、最初に話したたくさんあるってやつ、あれね、僕、この話聞いて以来ね、旗は見つけやすい目印とかだけじゃなくて、「そこにたくさん集まってるんだぞっ」て、「ここに大勢いるぞっ」て、そういう意思表示をしてるんだろうなって思うようになりました。
だからね、旗が立ってるから何か起こるんじゃなくてね、旗がたくさん集まったら、何か起こるんじゃないかなって。そう考えると、旗がちょっとだけ立ってる家、結構たくさんあるかも知れないですね。まだ何も起きてないから気がつかないだけで。
佐久山さんがその後どうなったかは、後でまた話します。
じゃ次の人どうぞ。
(補足:佐久山さん、柴田さん、もしこの投稿を見てましたら、この話の話者が誰なのかご連絡頂けますと幸いです)
【少し間があり、次の話へ】
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