第1話【かくれんぼ】Aさんの語り(心霊)

これ録音してるの?

(補足:男性。彼ではない。声も太く低いので40歳ほどのがっちりした体型の人?一人目なので仮にAさんとしておく)


【少し間があり】


じゃ。最初に。

これは大学の時に知り合った友達、坂本君から聞いた話です。彼の実家は愛知県名古屋のほう、かなり山に近いそうで、森や田んぼ、畑に囲まれた所なんですね。


で、今から三十年くらい前の小学生の頃、同級生と学校終わりにいつも遊んでた。今みたいなゲーム機とかスマホもないから、鬼ごっことか缶けりとかね、そういう懐かしい遊びをしてたと。


遊んでた所が、山の森の中にある神社なんですね。そんな怖いとかお化けが出るとかはなくて、普通の、いつも遊んでる、近場の広場がある所くらいの感覚で。

そこでかくれんぼをすることになった。これも別に初めてとかでなくて。五、六人で集まって、その日は坂本君は隠れるほう。

でもいつも遊んでるから、だいたいみんな隠れる場所が同じになっちゃって、もう鬼にもバレてるんですよ。

あの大きな木の後ろだとか、坂の下の自販機のうしろだとかね。隠れる場所にはもう決まってるパターンがあって、鬼がどの順番で回るかで勝ち負けが決まっちゃう状況だったと。

だから坂本君はね、友達の牧田君と「今日は新しい隠れ場所を見つけよう!」って。


鬼の子が一分のカウントはじめて、坂本君は牧田君と二人で、社の裏に回ってね。いつもは親から危ないからやめろって言われてたんですけど、その日初めて森の中に入ってったみたいなんです。


ザクザクと、腰ぐらいまでいる高さの藪を掻き分けてね。手入れなんてされてないですよ。

遠くから鬼の「ごーじゅっ、よーんじゅきゅっ、よーんじゅはちっ」って声が聞こえてて。「急げ急げ」って森の中にぐんぐん入ってく。

「さーんじゅご、さーんじゅよん、さーんじゅさん」って声も遠ざかってく。


しばらく進むと、藪がばっと開けて、ちょっとしたスペースに出た。といっても、そこには周りよりひと回りかふた回り大きい大木が生えてて、その大木にしめ縄がされてたんですって。そこの周りだけちょっと整備されて、藪が伐採されて、ちょっと周りの木々と差別化されてるみたいな。


初めて来た場所に二人はテンションあがっちゃって。ここに隠れよう!と。そこで裏に回ってね、しめ縄のされた木に寄りかかって息を潜めるんですよ。

「じゅー、きゅー、はーちー、なーなー、…」

鬼の声が聞こえる。


そこで坂本君あれっと思った。

一分くらいとはいえ、森の中入ってきてるから、声なんて聞こえるか聞こえないかくらいの大きさになるのが普通じゃないですか。それがなぜかはっきり声が聞こえる。

坂本君が牧田君にその事を言おうとしたらね、すぐ近く、まるで隠れてる木の反対側から

「もーいいかい?」

って声がした。この声ね、かくれんぼの声じゃ無いんですって。まるで、そこにいるのがわかってるような、近くの人に話しかけるような声の大きさだった。

こわってなって。坂本君の体はきゅってなって声が出せなかった。

そうしたら隣にいた牧田君がね、大声で「もーいーよ!!」って。

人って、緊張してるときほど物音に敏感じゃないですか。坂本君、ビクッ!として牧田君のほう向いたんですって。そしたらね、牧田君は何にも気付かないでこっち見てニコニコしてるんですけどね、その向こう側にね、真っ黒な人影が立ってたんですって。


全身真っ黒で、目なんて無いのにこっち見てることだけは坂本君にはわかったそうですよ。

その黒い影の、口の部分が急に裂けて、真っ赤な口の中が見えて

「見つけた!!見つけた!!見つけた!!」って叫び始めた。

その声に牧田君が反応して、回りキョロキョロして「なに!?なに!?」とか言ってるんですね。

影が見えてないんですよ、牧田君には。声は聞こえてるのに。

坂本君、最初はびびって動けなかったらしいんですけど、牧田君がそんな状況だからなんかが体が動いてね。逆に冷静になっちゃったっていうか。それで急いで牧田君の手を取って、来た道を全力疾走で戻り始めた。


悲鳴もあげられなかったそうですよ。とにかく「逃げなきゃ!」と。牧田君は手を引かれながら「なに!?だれ!?」とか言いながらも、坂本君が必死だから、一緒に走ってね。

でも来た道は藪ですよ。掻き分けてるから、あんまり早く走れないんですよね。

ザクッザクッザクって大股で、腕も使って藪を掻き分けてく。

その間、後ろからずっと「見つけた!!見つけた!!見つけた!!」って声がしてて。

はやく友達たちの所へ、はやくはやくはやく…!と思ってたらいきなりばっと、社の裏に出た。牧田君も一緒に。見つけたって声も聞こえなくなっててね。


ほっとした瞬間「あ、いた」ってすぐ横から声がした。

またビクッとして見たら、友達だったんですね。「お前らさ、結構探したけどどこいたのん?」って。二人が見つからなくて、三十分くらいみんなで探してたらしいんですよね。もうちょっとで親呼ばれる所だったらしいですよ。

坂本君も牧田君も、体感は長くても三分くらいなんですよ。だって鬼の「じゅー、きゅー、はち、」って声だって聞こえてたし。


でも、その声、本当に友達の声だったんですかね。

僕はね、違うと思うんですよ。だって、かくれんぼって普通いちから数えるでしょ。いーち、にー、さーんって。逆って、まるでカウントダウンみたいな。

カウントダウンってことは、二人がそこに来ることを知ってて、なにかが待ち伏せしてたんじゃないかなと思うんですよ。坂本君にそれいったら嫌な顔されましたけどね。


後日ね、社の宮司さんに話聞いても、特にその神社、御神木とか無いらしくて。

坂本君も牧田君も、怖くて神社の裏に行くことはあんまり無くなったらしいです。

まぁ近所の遊び場なので、また神社にはすぐ遊びに行ってたらしいですけど。森には二度と入ってないみたいです。


ちなみに牧田君は、見つけた!って黒い影に言われたけど、それ以降特に何も変なこと無いみたいです。

坂本君は「俺は声出してないから見つかってないと思う」って言ってました。ただ、それだと、そいつはまだ坂本君のこと探してるんじゃないかなって。だって坂本君、「もーいいかい?」に、「まーだだよ」って言ってないですから。

坂本君のかくれんぼ終わってないんですよね。まだ探されてるほうが嫌だなって。


(補足:坂本さん、牧田さん、もしこの投稿を見てましたら、この話の話者が誰なのかご連絡頂けますと幸いです)


【少し間があり、次の話へ】

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る