第16話【モメッオッスー!】Aさんの語り(オカルト)

 これは大学の時に出会った本田くんから聞いた話です。

 本田くんが小学生の時、地元名古屋のデパートに、今ではあまり見られなくなった、デパートの中にある遊園地があったらしいです。

 それが屋上にあるタイプの奴じゃなくて、最上階のフロアの中にある、屋内式のものだったらしいんですね。だから、観覧車とかの遊園地らしい遊具は無くて、動物を模した乗り物とか、UFOキャッチャーとか、筐体式の格闘ゲームとか、そういう簡単な遊び道具しか置いてなくて。

 でも、デパート自体滅多に行けないところだから買い物に行くたびに本田くんはお母さんを無理矢理引っ張って遊園地に行っていたらしいです。


 そんな遊園地に、ある日新しい筐体が増えていたそうです。それは、もう最近はあまり見かけなくなった電話ボックス、今だと何でしょう…小型の宝くじ販売店?のような大きさで、四方のうち3面がガラスばりで覆われ、中には等身大の人間の人形が入っている占いマシンでした。中の人形は上半身しか作られていませんが、壮年の女性のものだったそうです。

 一見かなり目新しいのですが、そもそも田舎の遊園地に来るような筐体は大体中古で、すでに外側は傷だらけ。中の人形も少し黄ばんで汚れや塗装の剥がれが目立ち、髪の毛も一部抜け落ちてかなりの凄みを放っていたそうです。

 これが普通のゲーム機なら触らないのですが、占いマシンとなると、何となく年季が入っていた方が当たりそうというか、神がかり的なオーラを感じて、本田くんはお小遣いの幾らかを、そのマシンに入れました。


 昔は違和感なく動いたのでしょうが、やはりかなりボロくなっていたんでしょう。

 お金が入ったことに反応し、筐体の中の電気がパッとつくと、中にいた女性の人形の目がぱかっと開き、口がぱかぱかと開いてスピーカーから何かを喋っているような音声が出ます。ただこれが日本語ではなく、またガサガサという雑音がしてかなり聞き取り辛い。両腕を左右上下に振ったりしていますが、だいぶガタついていて、ちょっと動いたかと思えばすぐ止まったり、動き出したかと思えばギギギギと音を立てて体全体が揺れるほど振動したりと、相当気持ちが悪いんですね。

 で、30秒ほどして、人形が「モメッオッスー!」みたいな声を出すと、下についていた取り出し口からカードが一枚出てきました。何と言っているかは分かりませんが、あまりに奇妙な言葉の響きで、思わず親子で笑ってしまったようです。

 そのカードは表面に占いの結果が、裏面にはその人形の若かりし頃のものであろうビジュアルが描かれていました。

 ただ表面に書いてあるのは英語で、当時の本田くんには読むことが出来ませんでした。本田くんはお母さんに頼んで読んでもらおうとしましたが、お母さんも英語は得意ではなく…。


 今までデパートの遊園地でお金を使ったことがない本田くんのお母さんも、占いというのに興味を持ったようで、家に帰ったらお父さんに読んで貰えばいいやと、占いマシンにお金を入れました。

 人形がギギギギと動き出します。本田くんがお金を入れた時の動きとは動きが違ったらしく、良く出来ているなぁと感心していたそうです。

 ぎこちなく動いていた人形の右腕が左側に寄せられていきます。上半身はうまく稼働しないのか、ギリギリと振動してはいるのですが、上手く回転できないようです。右腕が左肩のあたりに、無理やり引っ張られていくように動いていきます。体、いや筐体全体が身悶えているかのようにガタガタと震えます。

 突然、人形の右腕が耐えきれなくなったとでもいうように「ガコン!」と音を立てて右側に引き戻されます。その音の大きさもさる事ながら、何よりもその動きが「首を掻っ切る」ポーズのように見えてしまい、今まで人形を興味深く見ていた本田さんは、その途端に気味悪さを感じてしまったようです。

 お母さんは特に気にしない様子で、また人形が「モメッオッスー!」と言って筐体から吐き出したカードを嬉しそうに取り出していました。

 筐体の人形から少しでも離れたくなった本田くんは、そのままお母さんの手を引っ張って遊園地を離れました。


 家でお父さんに占いカードを手渡したのですが、見る見るお父さんの顔が青ざめていき、二人分のカードはその場で破り捨てられてしまったそうです。その後お父さんとお母さんは相当喧嘩していたらしいのですが、どうやらあまり良くないことが書いてあったようで、「子供向けのゲームにしては酷すぎる」と、お父さんが翌日デパートに苦情の電話を入れていたのを本田さんは今でも覚えているらしいです。

 それから数週間か数ヶ月して次にデパートの遊園地に行った時、そのマシンはもう有りませんでした。お父さんの苦情で撤去されたのかはわかりませんが、同級生に聞いてもそのマシンで遊んだという話を聞かないので、すぐ無くなったのだろうと思います。


 その数年後、本田くんが中学生の頃に、彼のお母さんは居眠り運転のトラックに轢かれて亡くなりました。もちろん占いマシンとの因果関係は一切ない不幸な事故でしたが、衝突の衝撃で首が弾け飛んでしまったらしく、本田くんはお母さんのご遺体を見ることはついぞ無かったそうです。


 その後進学し、英語を学んだ本田くん的には、あのマシンが言っていた「モメッオッスー!」は、恐らく「moment of death(モーメント・オブ・デス)」、訳すと「死に際」と言っていたんじゃないかと思ってるそうです。

 つまり、あのマシンはその人の死に際を占っていて、それがカードに書かれていたからお父さんが怒ったんだろうと。

 今その話をしてもお父さんは「そんなことあったかな?」なんてレベルらしいので、当時のカードに何と書いてあったか知る由もありませんが、せめてあの時英語が読めていれば、自分の人生のネタバレが聞けて面白かったのかも、と本田くんは言っていました。


(補足:本田さん、もしこの投稿を見てましたら、この話の話者が誰なのかご連絡頂けますと幸いです)


【少し間があり、次の話へ】

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