第17話【のぼり旗を轢いた話】Bさんの語り語り(心霊/人怖)

(補足:第2話【のぼり旗】の話の続きです。読まれてない方はこちらから読んでいただけますと幸いです。


※第2話の簡単なあらすじ。佐久山さんが大学生のころ、友人の柴田さん他2人を誘ってドライブに出かけた。その場の勢いで肝試しに行こうと、4人は岡山県の山中にある、マイナーな心霊スポットの霊園に向かった。そこで佐久山さんたちは、深夜の霊園に並ぶ大量ののぼり旗と、その後ろに立っていた集団を目撃する。驚きのあまり佐久山さんは勢い余ってそののぼり旗を後ろにいた人ごと車で轢いてしまう。そのまま佐久山さんたちはパニック状態で下山したが…)


 じゃせっかくなんで、さっきの話の続きから話しますね。すっごい匂わせ的な終わり方もしちゃったし。


 佐久山さんたちは山から降りてまず最初にしたことは何かっていうと、出頭なんですね。

 もうこれは当たり前のことかなと。佐久山さん的には人を轢いちゃってるわけだから。日が出てコンビニに人が出入りするようになって、ようやく車から出て、みんなで缶コーヒー飲みながら、警察に行こうと。彼ら一睡もしてないですけど、それどころじゃ無いんですよね。深夜の山の、真っ暗な所に灯り一つもつけずに人間が集まってるのを見ちゃったわけだし。尚且つそれをひき逃げしちゃったわけだし。


 で、そのまま車で近くの警察署行ってね。人を跳ねましたって話をするわけですよ。そのまま交通課の人たちが来て、「なんですぐ通報しなかった!」って。佐久山さんたち、そのままパトカー乗せられて、救急車も来てね。まさかの事故現場に逆戻りすることになっちゃったんですね。

 日が出ているとはいえ、めっちゃ怖いんですよ。死体があっても嫌だし、無いと尚更不気味でしょ。

 パトカーの中でお巡りさんに事情を説明しても、アルコール接種の有無を疑われたりするだけなんですよ。酔い覚ましの時間稼ぎしたと思われちゃっててね。実際飲んでないし、どう検査してもアルコールは検知されなかったらしくて。


 パトカー2台と救急車が連なって山道に分け入っていく。佐久山さんたちが擦ったであろう、ガードレールの傷もちらほら見えてくる。

 で、そろそろ「⚪︎⚪︎霊園まであと100メートル」って書いてある旗がある頃だなと思ってたら、いつまで経っても出て来ないんですね。佐久山さんと柴田さん二人で、そもそも逃げ帰る時、その旗まだあったか?ってなって。見逃すはずないじゃ無いですか。どんなに慌てても、道路に置いてある旗なんて。

「いや、帰る時から無かったかも知れないけど…誰かが回収したってこと?」でも深夜に山道で?誰が?ますます不気味なんですね。


 パトカーがぐんぐん山道を登っていくと、神社の境内についた。お巡りさんが、さあここだと言わんばかりに四人を駐車場で降ろすんですけど、彼らには全く見覚えが無い場所なんですよねそこが。

 まず、確かに霊園の駐車場なんです。でも、コンクリートでちゃんと整地されてる。昨日来た時は砂利だったはずなのに。だからブレーキ踏んでも滑ったのに。そして、広さも全然違う。昨日は車でぐるっと回れるようなスペースで、駐車してた車なんて一台も無かったのに、今いる駐車場は道順もしっかりわかるようラインが引かれているし、すでにもう何台か車が止ってるんです。

 え!まさか別の山?道間違えた?いや、確かに一本道だったよなって話してるんですけど、お巡りさんたちは怒ってるわけですよ。被害者の発見が遅れると、ひょっとしたら命が失われちゃうかも知れないから。


 その神社の宮司さんが出てきて、何かあったんですかーって。昨日ここの駐車場で、人を轢いちゃって、でも今いる場所が事故現場じゃなくてーって話をみんなでするんですけど、宮司さんも「気が付いてないし、特に来た人からも何も言われてませんねー」ってことで、もう全然会話が噛み合わない。

 事故現場どんな所でしたかって宮司さんに聞かれて、いやあの、のぼり旗がたっくさん立ってて、砂利で作られた広いスペースでって話してたら、宮司さんがしばらく難しい顔してね。

「ひょっとしたら、あそこかも知れない」って言って、ご案内しますから着いて来てくださいってことで、次は宮司さんの車にみんなでついていくことになっちゃった。


 来た道を宮司さんの車、パトカー、パトカー、救急車で戻るんですね。

 で、宮司さんの車が脇道の、ガードレールが無いようなところでフッと曲がった。そこは、ぱっと見はわからないんですけど、確かに道があって、車が通れる道があったんですね。

 ただすれ違うことはできない。完全に一方通行。しかも道路は舗装されてなくてでこぼこで。

 しばらくついてくと、パッと開けた所にでた。

 佐久山さんたちが「あっ!」て声をあげて。

 ここです!僕たちが事故ったのここです!!って。


 広ーい敷地に、砂利が敷いてあって、それ以外何にも無い場所。駐車場に見えるけど、車も一台も無い。その向こうに茂みがあって、確かにその一部の木の枝が強い力で折られてるんですね。

「ここです!ここに突っ込んだんですよ!!」

 確かに砂利にスリップ痕と言うんですか。車の擦った後が、砂利を掻き分けるように入っている。

 ただ、茂みの向こうは鬱蒼とした森で、のぼり旗なんて立てる場所もないし、ましてや人がいた形跡すら無い。


 お巡りさんも救急隊員さんも困っちゃってね。血痕とかも無いし、本当にここで轢いたの?なんて聞かれて。でも、ここだと思うんですけどねーって言いながら、佐久山さんがちらっと宮司さん見たらね、すごく真剣な顔をされてるんですね。

 あれ、宮司さん、ひょっとして何かありました?って聞いたらね。宮司さんが、いやいやそんなにね、たいした事は無いんだけどねって。


「今は山の麓に大きな霊園があるでしょ。でも昔はね、街中に霊園は作れないから、この広場に亡くなった人を祀ってたのね。それを30年くらい前に、まぁ土地開発だなんだとか、道が不便だとかで、新しい霊園が作られることになったから、皆さんに山の下までご移動頂いてね。それ以降ね、ここはちょっと血気盛んな若者がバイクでくるとか、間違えてキャンプしに来ちゃう人とかがたまーに来るぐらいで、全然大勢が夜集まる所じゃ無いんだよねー」って話をされた。


 ビビったのは佐久山さんですよ。「え!?俺、幽霊轢いちゃったの!?」いや幽霊かどうかはわからないけど…上でお祓いでもしてく?って宮司さんに言われて。

 佐久山さんたち4人、結局そのままお祓いしてもらったんですって。警察の人たちはそのまま帰ってったらしいんですけど、車の確認をしても衣服とか人とぶつかった痕跡は無かったらしいですよ。

 ただ、フロントのへこみは、木の枝にぶつかってできたような傷跡じゃないとは後日言われたそうです。それこそ、人間大の何か。具体的に言えば人間。でも、人間の痕跡は無いから無罪。じゃあ何轢いたんだって話ですよね。


 佐久山さん的にはあまり考えたくないらしいんですが、運転素人の自分が、あんな入りにくい道を、しかも夜、事故なくすんなり元霊園の広場まで辿り着けたのは、やっぱりのぼり旗があったからだとしか思えないそうです。

 逆に言うと、最初に見えた「⚪︎⚪︎霊園まであと100メートル」ってのぼり旗は、誰が立てて、いつ回収したのかって話ですよね。


 佐久山さんは、心霊でも人間の悪戯でも、どっちも嫌な話だって言ってました。


(補足:佐久山さん、柴山さん、もしこの投稿を見てましたら、この話の話者が誰なのかご連絡頂けますと幸いです)


【少し間があり、次の話へ】

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