第18話【背が高くなったねぇ】Cさんの語り(人怖)
これは、仕事中に私が出会った井出さんから聞いた話です。
井出さんにはお姉さんがいました。年は5歳ほど離れていたそうです。
そのお姉さんは、家族と同居しているおばあちゃんにとても可愛がられていました。
おばあちゃんは井出さんのお姉さんに「背が高くなったねぇ」と毎日のように言っていました。
毎日会ってるんだから変わらないだろと思っていたのですが、毎日顔を合わせるたびに「背が高くなったねぇ」と言われる生活がずっと続いてきました。
ですが井出さんが6歳の頃、おばあちゃんが亡くなりました。最期の方は風邪が悪化し、肺炎になってしまい、病院で亡くなりました。
最後のお見舞いに行った時も、おばあちゃんは井出さんのお姉さんに「背が高くなったねぇ。このままじゃ、天井に頭がついちゃうねぇ」と言ったそうです。
おばあちゃんが亡くなってからしばらくして、お姉さんがよくお母さんに怒られるようになりました。
どうやらお姉さんは、部屋の中や学校でわざと中腰だったり、無理やり身体を縮めたような姿勢で過ごすことが増えてきたからだそうです。
井出さんがお姉さんに「なんでそんな変な歩き方するの?」と尋ねると、彼女は
「私が大きくなると、天井に頭がついちゃうから…」と答えたそうです。
お姉さんの身体を縮めて歩く癖は、それからもずっと治りませんでした。いつの間にか背骨はおばあさんのように折れ曲がり、頭は肩より下に垂れ、目は虚。足は内股で歩きすぎてひどいO脚。短い歩幅でヨタヨタと歩く姿は、前までの優しかったお姉さんが変わっていくようで、井出さんは見ていて悲しくて仕方なかったそうです。
井出さんの家族は、ついにお姉さんにコルセットをつけました。姿勢を直すためですが、おそらく彼女の行動は心理的ストレスだろうと母たちは考えていたので、「これをつければ背が伸びない」ということで、姿勢も直しつつ彼女のメンタルケアができるようにしました。
ですが…。強制的に姿勢が良くなった彼女は、毎日家で非常に天井に怯えるようになりました。「天井が迫ってきている」「天井が怖い」「今にも頭が電球にぶつかってしまうんじゃないか…」
井出さんのお姉さんはついに四つん這いで生活し始めました。こうなってしまっては学校に行くこともできません。
両親は諦めて、彼女を病院に入れることにしました。
井出さんのお姉さんは最初は四つん這いに。しばらくすると腹ばいで生活する様になりました。コルセットを取ってももう意味がありません。井出さんのお姉さんは、蛇のように床を這いずり周り、そこでご飯を食べ、眠る生活をし始めました。
井出さんは一度病院までお見舞いに行ったのですが、床に突っ伏して妹の顔を見ようともせず、手足を細かくバサバサ動かして地面を移動する姉の姿を見て以来、もう二度と彼女と会っていないそうです。
ずいぶん呆気ない話だったので、私は井出さんに「その後何かあったの?」と聞くと、彼女は少し悩んでいましたが、こんな話をしてくれました。
実は、姉はもう死んだんです。
え!?やっぱり、精神的な病で…?
いいえ、「圧死です」
姉は、床に寝そべって寝てる時、地震で落ちてきた天井に潰されて死んだんです。
こんな話、できすぎてて私本当は話したくないんですけど…。ただ、バカらしくって…。地震で死ぬなら、精神的に病んであんな風にならなくても良かったのに。
そう語る井出さんが、口を開けてにっこりと笑いましたが、その口の中は真っ暗で、歯が一本もありません。
井出さんは幼い頃、おばあちゃんから「歯が早く生え変わるといいねぇ」と毎日言われていたようで、その後生えてきた永久歯を、全て自分で自分の口を学校にあった鉄棒にぶつけて粉砕してしまい、今は入れ歯生活をしているようです。
(補足:井出さん、もしこの投稿を見てましたら、この話の話者が誰なのかご連絡頂けますと幸いです。
例によって雑音は一切しません。)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます