【怪談会録音文字起こし】K県アパート火災について

瀬川正義

第0話【きっかけ】

これは知ってる人が読めば、どの街で起きたかがすぐにわかってしまうような、しかもわりと有名な事件に関する話です。


先にお断りしておきますが、事件について私の知っていることは全て警察の方にお話しております。

ただ、ここに書き起こしていくものはまだ誰にも話していない情報です。とは言っても、話してもあまり意味がないというか、きっと馬鹿にされてしまうような荒唐無稽な内容のものになると思います。

もし何かこの事件の解決の糸口になるものを見つけられた方がいればご連絡・コメント頂ければと思いますが、私も起きたことの全てを把握している訳ではないです。ですが個人的には少しでも何か手がかりになるようなことがあればと考えています。


簡単に事件の概要を記載します。

202✕年✕月✕日の深夜、K県のアパートで火災が発生し、建物が全焼したあの事件です。死傷者は報告されていませんが、テレビだと煙を吸ったとか何かで近所に住んでいたお婆さんが病院に運ばれたと言っていました。

オカルト掲示板に張り付いているような怖い話が大好きな人ならご存じかもしれませんが、これは『K県アパート火災、及び住人失踪事件』に纏わる話です。

警察によるとこの火災の後、そのアパートに住んでいた住人(12人)全員と連絡が取れず、行方もわからず、結局何が原因の火災かも解っていないそうです。もちろん遺体も見つかっていません。

これは伝聞なので、ひょっとしたら不思議なことは全然無くて、たまたま深夜にアパートの住民がみんな外出していたり、避難して騒動に巻き込まれなかっただけなのかも知れません。連絡が取れないというのも、もう事件に関わりたくないだけの可能性もあります。


でも私は、全員がそうだったとは思いません。それは、そのアパートに住んでいた住民のうちの一人は私の友達だからで、当時私は彼の部屋に遊びに来ないかと誘われていたからです。


彼とは大学の音楽サークルで知り合い、専攻は違ったものの好きなベーシストの話で意気投合し、しかも二人とも作曲をするというので急速に距離が縮まり、何度も一緒に遊びに行くような良い友達でした。

そんな彼は(私はあまり興味が無いのですが)怪談話が大好きで、サークルメンバーとのドライブ中に車内を沸かせるような怖い話を度々披露してくれていました。


そして事件が起きる一週間ほど前。彼から「今度家で怖い話大会をするから来ないか」と誘われました。

どうやら彼のまわりには年齢を問わず、怖い話が好きな友達が多かったみたいです。怪談が好きなメンバーが集まり、百物語とまでは行かないが、酒でも飲みながら怖い話を語り合うイベントとのことでした。

私は、正直幽霊とかオカルトを信じない人間なのであまりその会に興味がなく、しかも友達の家には車で行くのでお酒も飲めない感じだし、結局その日は忙しいとか何かしら理由をつけて断りました。

ただ怪談会の開始時間は夜の9時からだったのは知っています。これはメッセージアプリで彼から連絡が来ていたからです。そしてその開催日は火災が起きる前日でした。


ここまでは警察にお話ししています。

それは、もしこのイベントが本当に開かれていたら、住民以外の不特定多数の人間がアパートを出入りしているわけですし、場合によってはその会に参加したメンバーに何か話が聞けるかも、と考えたからです。

ただ、私は結局参加はしていないので、当日彼の家にやって来たメンバーも知らなかったので、結局あまりお役には立てなかったようです。


ここから先が、まだ誰にも話していない内容です。

事件の直後はサークルのメンバーが巻き込まれたということで、刑事の方が大学に来たり事情聴取をされたりとかなりバタバタしていてましたし、そもそもサークルが一時活動中止になっていたのですっかり忘れていたのですが…。

私と彼とは作曲した音楽のデモや、(違法かも知れませんが)最近のお気に入りの楽曲データをアップする二人の共有ドライブを持っていました。

彼が行方不明になり、メッセージアプリやSND等は良く見ていたのですが、このドライブにログインしたのは事件が起きてから、つまり彼が行方不明になってから2ヶ月くらい経った後でした。

ドライブを見た理由は、心の整理ではないですが、彼と作っていた曲を仕上げてしまおうと思ったからです。


データを確認した所、ドライブには新しい音声データが一つアップされていました。

私は上げたつもりがないので、恐らく彼がアップしたものだと思います。

データ投稿のタイミングは二ヶ月前の事件当日、深夜2時33分でした。データは非常に重く、だいたい長さが五時間弱もあります。

音声を聞けば行方不明の彼を見つける糸口になるかもしれないと思い、急いでデータをダウンロードしました。

再生するまでは、ひょっとしたら誘拐犯とか放火魔とか、事件に関連する音声が入っていると思ったのですが…。

再生してみるとそれは、私が誘われた怪談会の音声をただ録音したものでした。

まだ冒頭少し聞いただけですが、音声はいきなり怪談話から始まっており、誰が、そもそも何人が彼の部屋に来ているかも判断ができません。


私は心霊現象は信じていませんし、怪談もあまり興味はありません。

ただ、彼がどこに行ってしまったのか、また会うことは出来ないのか、避難しているならどうすれば連絡が取れるかは気になります。

なので私は、この怪談の音声を文字起こししてみることにしました。どこかに事件の様子が収録されているかも知れないし、怪談とは関係のない、プライベートな雑談から、彼の避難先を割り出すことができるかも知れません。


怪談会の音声なんて警察は興味が無いでしょうし、ほとんど私の興味本位、趣味みたいなレベルです。

本当は一気に再生してしまいたいのですが、私も大学生活が忙しいので、とりあえず一話ずつ聞いて、それを書き起こしていこうかと思っています。

一話聞いたらそこで再生を止め、次の書き起こしの時に続きを聞いていく感じがいいかなと。分量的にもこれならどうにか続けられそうです。


あまりに正確に詳細を書いてしまうと、ご本人やその関係者の方々にご迷惑をおかけしてしまう可能性もあるので、ある程度はフィクションを入れるかもしれません。

ただ(誰かに怒られない限り)録音データの内容は可能な限りそのまま書き起こすつもりです。


文字起こしのコツなどが有りましたらアドバイス頂けますと嬉しいです!

一体どれくらいの分量になるか私にもわかりませんが、もしご一緒に事件の謎を解明したいという方がいらっしゃいましたら、ぜひコメント等頂けますと幸いです。


それでは、今からデータを再生します。

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