第14話【父の話】父の語り(心霊)

(補足:先ほど、うちに来ていた父が帰りました。家を叩く音は、父がインターホンを押した途端に止みました。

 家の周りは特に誰もおらず、ドアを強く叩いたような跡も無いようです。

 不審者として警察に連絡しようと思いましたが、今回は何も無かったし、とりあえず暫く様子を見ようというのが私たちの結論になりました。


 私は、さりげなく彼が住んでいたアパートについて父に探りを入れました。すると父は存外簡単に、あのアパートは事故物件であることを話し始めました。

 ここから先は、父が私に話した内容を録音したものを書き起こしたものです)


 あーあの焼けたアパートね。

 元々は一階に前の大家さんが住んでたんだけど、なんか住民トラブルで追い出されちゃったらしくて。大家が追い出されるって意味わかんないでしょ。まぁひどい住民でもいたんじゃない?

 でも、もうあのアパートにはいられないとかいって、今の大家さんに売り渡しちゃったの。で、今の大家さんもそこに住む気は無いから、俺に運営の相談が来たってわけ。


 正直ちょっと交通の便も悪いしさ、あんまり人気な物件じゃないと思ってたんだけど、住めば愛着があるのか、出てった前の大家さん以外はみんな長いことあそこに住んでてさ。

 まぁみんな独り暮らしの人たちばっかりだから、気楽なんだろうね。


 でも、いつだったかなぁ…。一年前くらい?に、三階に住んでた人が死んじゃってさ。痴呆の入ったおじいちゃんで、雨の日に傘もささないで出掛けてたらしくてさ。

 多分濡れて泥だらけのまま帰ってきて、そのまま寝てたら風邪引いて死んじゃったんだろうね。異臭がして見つかった時は、身体も部屋も泥というか、乾いた土で真っ黒になってたらしいよ。

 事件性は無いけど、孤独死だから事故物件になっちゃってさ。亡くなり方が気持ち悪いから、そのアパートに夜行くと、真っ黒な人影が出るなんて噂も立っちゃってさ。

 でもまぁ、その部屋も大学生の人が借りてくれたよ。事情もちゃんと理解してくれて、安ければいいって言ってくれてさ。


 結局何で火事になっちゃったか今でもわかんないけど、住民の人はどこに行ったのかな。もし生きてるなら、ちゃんと連絡して欲しいよね。まぁ焼け跡からご遺体は見つからなかったらしいけどね。


 そういえば思い出したけど、あのアパート、一回だけ近くに住んでる人から苦情が入ったことがあってね。

 夜の3時くらいにアパートの方見たらね、全部の部屋に明かりがついてて、窓際に一人ずつ人が立ってるのが影で見えたんだって。誰もカーテンしてなくて、部屋の明かりが逆光になって姿は真っ黒だし、表情とかも見えないけど、ただ突っ立って窓際にいたらしいよ。1部屋だけが明るかったら、窓開けてタバコ吸ってるのかなと思うけど、全員がさ、同じ時間に窓際に立ってるなんて、気持ち悪いよね。

 覗かれてるーなんて苦情だったけど、そんなこともあったね。


(補足:父から聞けたのはこの程度の情報でした。彼についてではなく、本当にアパートについての話でしたが、彼の部屋が事故物件だったとは知りませんでした。お金にでも困っていたんでしょうか。

 父が帰って、また家に私一人になったので、彼の写真を壁に貼り直しました。私の録音テープはまだ半分ほどデータが残っています。

 彼の語りの続きをまた明日から聞いていこうと考えています。ひとまず今日は落ちつきます。明日からまた彼の声が聞こえると思うと嬉しくてたまりません!)

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