第11話【人間動物園】Kさんの語り(UFO)

 動物学者の牧田さんから聞いた話です。


(補足:彼ではない。女性。もう女性が出てきても驚きません。彼には失望しました。私以外の女を部屋に入れるなんて信じられません。11人目なので仮にKさんとしておく)


 ウマとロバの交雑種ラバ、ライオンとトラの混血であるライガーなど、異なる動物同士の遺伝子を混ぜ、新種を生み出す実験は戦前から盛んに行われて来ました。現代の技術を使えば、理論的にはチンパンジーは勿論、イルカやクジラ、熊やオオカミと人間を交ぜることも可能だそうです。

 ただ、人間の遺伝子を根本的にいじるのは倫理的な問題から科学界のタブーとされています。産まれてきた生命体が人間なのか動物なのか判断できない、これはつまり「殺したら殺人になるのか、殺処分となるのか」という問題が発生するからです。


 牧田さんは、チンパンジーが研究対象として一番面白いと言います。人間とチンパンジーの遺伝子の差は1.2パーセント。この僅かな差が、人間と動物を分ける倫理の壁です。

 こういった遺伝子の差、変化はなぜ起こるのか。それは何万年という時間をかけて徐々に身体的特徴として現れるそうです。我々人間という個体が、文明を起こした約7000年前からあまり形が変わっていないのは、その程度の期間では遺伝子レベルで進化が起こらないからなのでしょう。


 ここから少し踏み込んで考えていきます。まずは人間が人間になった時、つまりチンパンジーと1.2パーセントの差がついたとき、いったい何が起きたのでしょうか。道具や火を使いこなす、他の動物と圧倒的な差をつける革命的な進化です。

 現在の研究では、脳みその肥大化がその要因として考えられています。脳みそが大きくなる過程で頭が重くなり、前のめりにならないよう背筋がのび、二足歩行が確立されていったのが、猿から人間への進化だと言われています。


 では、なぜ人間の脳は肥大化したのでしょうか。いや、逆に「なぜ他の動物は脳を肥大化できなかったのか」と考えるべきでしょう。

 コアラは、木から落下した時のダメージを最小限にするため脳を小さくするという進化をしました。イルカは脳が半々で独立しており、眠ること無く泳ぐことができます。

 脳の進化のバリエーションは数あれど、より多くの複雑なことができるようになるため、脳を大きくしようと考えた動物は猿以外にもいたと考えられます。しかし、どの種族もそれに成功はしませんでした。

 チンパンジーと人間の違いである1.2パーセント。そこが脳の大きさを変えたポイントであることは疑う余地がありません。


 この遺伝子については、長年地球上で研究されてきましたが、同一のものは自然界では未だに発見されず、進化の過程で得たと考えられてきました。

 しかし2022年。生態系の根幹を揺るがす大発見がありました。皆さんも日本の開発した宇宙探査機「はやぶさ2」はまだ名前だけは覚えているかと思います。ですが、はやぶさ2が持ち帰ってきた物は覚えているでしょうか?

 はやぶさ2が宇宙から持ち帰ってきたのは、生物の形成に不可欠な必須アミノ酸と呼ばれる物です。翌年2月に発表された解析チームによる分析によると、そのアミノ酸は炭素(C)と水素(H)、窒素(N)、酸素(O)、イオウ(S)を含む組成からなる有機分子が約2万種含まれていたそうです。

 ここまでが一般の世間に出ている情報です。しかし、牧田さんのところには口外禁止の機密情報が入っていました。はやぶさ2の調査チームが、動物学者、特に例の1.2パーセントの研究をしていたメンバーに、その具体的なDNA配列を確認しにきたそうです。牧田さんもその研究について、なぜか宇宙工学の研究者たちから聞き取りをされました。

 その時牧田さんはわかりました。恐らく、はやぶさ2が持ち帰ったアミノ酸は、地球では発見されなかった1.2パーセントの遺伝子配列を完全に含んでいたのです。


 つまり、チンパンジーは宇宙からやってきた遺伝子によって人間に進化したことが、はやぶさ2の調査によって解明されてしまったのです。


 遺伝子というのは、たとえば隕石を食べたり、たまたま側を歩いたからといって書き変わるような簡単な物ではありません。何万年もかけて進化するか「配合して強制的に生物を作り出す」ことでしか完成しないのです。

 つまり、人間が生まれる遥か昔、猿の祖先を捕まえて遺伝子組み換え手術を行った何者かが、この宇宙に存在するのです。


 さて、話は最初に戻ります。人間は、今でも人間と動物のDNAを混ぜることができていません。しかし、1920年にソ連の科学者が、チンパンジーと人間の遺伝子を持った生命体を作ろうとして、当局に逮捕されたという記録があります。

 人間は、倫理さえ無視してしまえばいくらでも遺伝子をいじることができてしまうのです。

 では、もしチンパンジーと人間を交配させ、ヒューマンジーができた場合、あなたならどうしますか?

 まずは隔離、観察をするでしょう。彼らを保護し、餌を与え、生きる方法を教えていった末に、個体数が増えていったとしたら。どんなにヒューマンジーが我々に近い見た目、存在だったとしても、家に招き入れたり職場で一緒に仕事をしたりできるでしょうか。

 恐らく、ヒューマンジーのみが暮らす動物園のような物を人間は作るでしょう。

 そして、もし彼らが人類の脅威になるほど進化した時、あなたはヒューマンジーを殺すことに抵抗を覚えるでしょうか。

 観察対象として見ている時点で、あなたは既にヒューマンジーのことを人間とは違う「動物」だと考えています。そして、動物が人間に危害を加えた場合は、ヒューマンジーの殺処分を行うでしょう。一部の優秀なヒューマンジー以外は動物と大差が無いので、恐らく殺されても心はあまり傷まないはずです。


 これが宇宙規模だったらどうでしょうか。宇宙人の科学者が、動物の遺伝子をいじった結果脳が肥大化した生命体が生まれた。宇宙人はその生命が全滅しないように丁寧に道具の使い方や火の扱いを教え込み、ある時点で動物園の中に閉じ込め、成長を観察しているとしたら。そしてその生命体が、自らの檻を脱出するためにロケットを飛ばし始めたら、宇宙人はどういう行動を取るのでしょうか。


 昨今、アメリカ空軍からUFO、今はUAPと呼ばれていますが、それらの資料を公表しました。その意図は一体何かを考えた時、牧田さんは「今からではもう遅いかも知れないが、少しでも優秀な存在、例えば人類が“間引かれる”時に、生き残らせるべき人間、生物になっておく必要があると思う」と言っていました。

 現在、地球の人口は80億人ほどいます。そのうちのどれくらいが、優秀な個体なのでしょうか。いや、そのうちのどれくらいを「生き残らせて」くれるのでしょうか。


 我々が思っているより早く、地球の終わりは来るかも知れません。


(補足:牧田さん、もしこの投稿を見てましたら、この話の話者が誰なのかご連絡頂けますと幸いです。それにしても、彼は一言も話さず、音も立てず何をしているのでしょうか。本当にこれは、あのアパートで録音された物なのでしょうか?11人もの人間が部屋でひしめき合って怪談をするなんて、もうそれが怖い話な気がします)


【少し間があり、次の話へ】

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